見終えたはずの標本が、もう一度口を開くとき―ゲーテの琥珀に閉じ込められていたのは、アリではなく私たちの注意だった 2026/02/10Posted in文献, 生物, 科学 ドイツ中部の町ワイマールにある旧邸宅。 その廊下の一角に、長いあいだ動かされることのなかった木製のキャビネットがあります。 引き出しには、石や鉱物、植物片が詰め込まれ、数えれば一万八千点を超える自然物が収められていま…
正しい答えが三つあっても、世界は一つにならない―GHZ型パラドックスが示した量子の文脈 2026/02/06Posted in文献, 科学 会議で三人の同僚が、同じ出来事について報告している場面を想像してみてください。 一人目の説明は筋が通っている。 二人目の話も、別の角度から見れば正しい。 三人目も同様です。 誰も嘘はついていないし、論理の飛躍もない。…
暖かい光の記憶―赤外線が欠けた世界で、私たちの目に起きていたこと 2026/02/05Posted in健康, 文献, 日常, 科学 冬の夕方、低い太陽の光に手をかざすと、理由もなくほっとすることがあります。 キャンプで焚き火を囲んでいるときも同じです。 炎を見つめているだけなのに、目の奥がほどけ、景色の輪郭がやわらぐ。 眩しいわけでも、明るさが増…
植物は状況を解釈している―長期電気信号観測が捉えた、ストレス対応の違い 2026/02/04Posted in文献, 生物, 科学 鉢植えの土が乾いてきても、植物はすぐには萎(しお)れません。 葉はハリを保ち、昨日と同じ姿をしています。 そのあいだ、植物の内部では、水が減っているという情報が処理され、まだ耐えるのか、方針を切り替えるのかが検討され…
わからないと認めたとき、科学は前に進む― 進化の袋小路に立つ「キノコのゴジラ」 2026/02/03Posted in文献, 歴史, 生物, 科学 “それ”の高さは最大8メートル。 太さは直径1メートル近くに達します。 人が横に立てば、見上げるしかない円柱状の存在が、4億年前の地球で、陸上に突き立っていました。 枝も葉もなく、根が広がる様子もない。 ただ巨大な柱…
自分を差し出す匂い — アリのサナギが放つ「利他的サイン」 2026/02/02Posted in文献, 生物, 科学 集団の中で体調が悪くなったとき、人はなるべくそれを隠そうとします。 弱っていると知られれば、役割を外されたり、距離を置かれたりするかもしれないからです。 学校でも職場でも、少し無理をして平然を装う場面は珍しくありませ…
遅咲きの暴君王―ティラノサウルスはいつ大人になったのか 2026/01/29Posted in文献, 生物, 科学 博物館に並ぶティラノサウルスの骨格は、いつも威圧的な姿を見せています。 巨大な頭骨、太い脚、圧倒的な体の大きさ。 その姿から私たちは、「これほど強い存在なら、若いうちに一気に成長したに違いない」と自然に考えてしまいま…
盗み聞きで学んでいた―ギフテッドの犬たちが覚えていた「物の名前」 2026/01/24Posted in文献, 生物, 科学 家の中で、人は犬に向かって話しているつもりでも、犬は別の場所で耳だけをこちらに向けていることがあります。 名前を呼んでいないのに反応する。 視線は合っていないのに、音だけは確かに拾われている。 多くの場合、それは偶然…
エウロパに欠けているもの―生命を支える条件は何か 2026/01/23Posted in文献, 科学, 自然環境 木星のまわりを回っている衛星エウロパは、太陽系の中でも注目されてきた天体です。 その理由は、分厚い氷の下に液体の海があり、そのさらに下には岩があると考えられているからです。 水と岩がふれ合う場所は、生命にとって大切だ…
何日先の天気を予測できるようになったのか―ECMWFの中期予報50年史と、衛星観測・アンサンブル・AI予報システム 2026/01/15Posted in台風, 文献, 科学, 自然環境 台風の季節になると、かつては気象庁が発表する情報が、ほぼ唯一の手がかりでした。 ところが最近では、スマートフォンのアプリを開けば、1週間単位で先を見通す台風の予想進路図を確認することができます。 複数の数値予報モデル…
終わりは、いつ終わるのか―境界線の上で見つかった、アンモナイトの短い余命 2026/01/12Posted in文献, 歴史, 生物, 科学 地層の境界は、一本の線として描かれます。 白亜紀と古第三紀の境目も、崖の断面では薄い層として現れ、「ここで時代が切り替わった」と説明されます。 その線は便利で、理解もしやすい。 けれど自然が、その線を知っているかどう…
「3姉妹の家」の謎と、歪んだコイン―出生時の性別は、どこまで偶然なのか 2026/01/07Posted in医療全般, 文献, 科学 待合室を見渡していると、家族の並び方に目が止まることがあります。 元気な男の子を3人連れてぐったりしているお母さんもいれば、年の近い3姉妹が同時にしゃべって場を明るくしているお母さんもいる。 診療の合間に、そうした光…
ちゃんとしたゆで卵をつくりたい!―あえて火加減を捨てた発想の転換 2026/01/06Posted in文献, 日常, 科学 できあがったゆで卵を割った瞬間に、「あれ?」と思うことがあります。 黄身はちょうどいいのに、白身が落ち着かない。 あるいは白身は形になっているのに、黄身が思ったより重たい。 調理の手順は間違いのないはずなのに、どこか…
猫は何を話しているのか―ミャーとゴロゴロが分かれた理由 2025/12/28Posted in文献, 生物, 科学 私のクリニックは、猫と暮らしている“猫派”のスタッフが多いです。 話を聞くと、猫の鳴き声を聞いただけで状況が分かるのだと言います。 空腹なのか、かまってほしいのか、あるいは少し機嫌が悪いのか。 猫の鳴き声は、意味を運…
世界はどこから始まったのか—個と宇宙をつなぐ新しい仮説 2025/12/14Posted in哲学, 文献, 科学 映画『惑星ソラリス』(1972年)では、主人公の前に立ち現れた存在が、彼自身の記憶と向き合う場面があります。 その背後に広がる惑星の海は、観測者の内面に応じて世界の輪郭を変える存在として描かれています。 この象徴的な…
T. レックス の幼体ではなかった―ナノティラヌスが描く“もう一つの捕食者” 2025/12/11Posted in文献, 歴史, 生物, 科学 映画『ジュラシック・パーク』(1993年)の豪雨のシーンで、ティラノサウルスが闇を裂くように現れる場面があります。 観客はあの巨体に圧倒されますが、もし画面の端に、もっと細身で俊敏な影が潜んでいたとしたらどうでしょう…
生き物のいない呼吸―土がひとりで炭素を燃やすとき 2025/12/04Posted in文献, 科学, 自然環境 映画『オデッセイ』で、取り残された宇宙飛行士が火星の砂にジャガイモ畑をつくる場面があります。 乾いた赤い地面に、人間の排泄物や残り物を混ぜ、酸素や水を与えることで、「ただの砂」が食料を生み出す場へと変わっていきます。…
細胞を動かす“連結のフック”―キネシン-2が荷物を選ぶ仕組み 2025/12/02Posted in文献, 生物, 科学 映画『ヒューゴの不思議な発明』には、止まった自動人形の内部で、少年が小さな歯車の欠けを見つける場面があります。 大きな機構よりも、見落としがちな細部が全体の動きを左右する。その構図は、細胞の中にも息づいています。 …
“予測”する社会が次に望むもの―AIが挑む地震の未来図 2025/12/01Posted in文献, 科学, 自然環境 映画『カリフォルニア・ダウン』(2015年、ブラッド・ペイトン監督)には、巨大地震の前触れを捉えた研究者が、迫る破壊の気配をどうにか伝えようとする場面があります。 都市の地表がわずかに揺れ、その変化がやがて大きな崩壊…
空からの警鐘―衛星が捉えた地震の「息づかい」 2025/11/17Posted in文献, 科学, 自然環境 忘れもしない、あの記憶。 テレビの画面に目が離せず、ただ事態が収まるのを待つしかない無力感。 地震大国に住む私たちにとって、地震や津波は日常と隣り合わせの現象です。 もし、ほんの数日でも前に「何か」が分かれば。そんな…
ウニは脳がないのではなく、脳だけを持っている 2025/11/16Posted in文献, 生物, 科学 グレッグ・イーガンの長編『順列都市』では、人間の意識がデータとしてスキャンされ、コンピュータ上で「コピー」として生き続ける未来が描かれます。 そこでは、私たちの「自己」や「意識」は、頭蓋の中の脳という器官にすべてが収…
星が一瞬、光って消えた―核実験とUAP(未確認異常現象)の“空の相関” 2025/11/04Posted in文献, 科学 動画投稿サイトなどに、夜空を横切る火球や、正体のわからない発光体の映像が流れてくることがあります。 ネットの時代になって、誰もが手元のスマートフォンで空を記録できるようになったことで、以前なら見過ごされていた“空の瞬…
垂直跳びと水平跳びの力学―男女のパフォーマンスに差が出る理由 2025/10/20Posted inスポーツ, 文献, 科学 今夏、東京で開催された世界陸上。 満員の国立競技場で、男子棒高跳び決勝でスウェーデンのアルマンド・デュプランティス選手が6メートル30センチの世界新記録を打ち立てた瞬間は、多くの人の記憶に刻まれたことでしょう。 重力…
「見て学ぶ」は人間だけじゃない―インコも見せた「第三者模倣」 2025/09/19Posted in文献, 生物, 科学 私が研修医になったばかりの頃、1年目はとにかく先輩医師のそばについて一緒に行動することが課せられました。 そして、彼らの細かな所作を観察するのです。 患者さんにどう接するのか、どんな情報を重視するのか、どの手順で検査…
内的モデルの科学 ― あなたの見える「普通」は、誰かの「普通」じゃない 2025/09/03Posted in文献, 生物, 科学 犯罪捜査の世界で、こんな話があります。 コンピュータで作られたモンタージュ写真よりも、訓練を受けた技術者が描いた似顔絵のほうが、犯人の検挙につながるケースが多いというのです。 ソフトウェアは目や鼻を組み合わせることは…