私が研修医になったばかりの頃、1年目はとにかく先輩医師のそばについて一緒に行動することが課せられました。
そして、彼らの細かな所作を観察するのです。
患者さんにどう接するのか、どんな情報を重視するのか、どの手順で検査を進めるのか。
直接教わらなくても、先輩たちのやり取りから流れを読み取り、自分の行動に活かしていきました。
例えば、兄が靴ひもの結び方を教わっているのを横で見ていた弟が、同じ結び方を自然に覚えてしまう─それと似ています。
これがまさに「第三者模倣」と呼ばれる現象です。
人間の子どもは2歳前後で身につけるとされています。
ところが最近の研究で、この力が人間以外の動物にも備わっていることが明らかになりました。
その主役はアオキコンゴウインコです。
研究チームは、特別な訓練を受けていないインコが第三者模倣を示すかどうかを調べました。
お手本役のインコが人間のハンドサインに応じて「足を上げる」「回転する」「羽ばたく」といった5種類の動きを披露し、テスト群のインコ6羽が透明な板越しにそれを観察。
その後、同じサインを与えられると、多くの個体が素早く正確に真似をしました。
一方、観察の機会を与えられなかった対照群5羽は、学習の速度も正確さも大きく劣っていました。
具体的には、テスト群は平均4.16個の行動を習得し、対照群は2.2個にとどまりました。
ほぼ倍近い差です。
さらにテスト群の一部は、人間から指示を受ける前に、自発的に観察した動作を模倣する姿まで見せました。
インコたちは単に形をコピーしたのではなく、「この人がこのサインを出したとき、この仲間はこう動く」というやり取りの文脈を理解していたのです。
舞台役者が他の演技を見て、「このセリフの後はこの動き」と学び、いざ舞台で再現するようなものです。
彼らが暮らす社会は、群れの構成員が頻繁に入れ替わる、いわゆる「分裂融合社会」です。
これは大きなシェアハウスのように新しい住人が出入りし、暗黙のルールをいちいち説明する代わりに、互いのやり取りを見て学ぶ仕組みが欠かせません。
第三者模倣は、この流動的な社会を円滑に保つための洗練された学習法だと考えられています。
先日、自宅の庭でリュウキュウヒヨドリがパンくずを奪い合う姿を見ました。
以前ならただの小競り合いにしか見えなかった場面も、今ではその背後に複雑な社会的ルールや情報伝達の仕組みが潜んでいるのではないかと想像が膨らみます。
ヒヨドリが首を傾げながらこちらを見ている姿にも、もしかすると、私たち人間のルールを懸命に読み取ろうとしているのではないかとも思ってしまいます。
インコの第三者模倣能力の発見は、動物たちの知性や文化の理解を深める扉を開く、新しい視点を与えてくれます。
参考文献:
Haldar E, Sánchez AH, Tennie C, et al. Third-party imitation is not restricted to humans. Sci Rep. 2025;15(1):30580. Published 2025 Sep 4. doi:10.1038/s41598-025-11665-9

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
