眠らなければ終わる夜に、なぜ目だけが冴えるのか―新奇環境で覚醒が続く理由と「初日効果」が残した回路 2026/02/13Posted in文献, 日常, 神経科学 出張の前泊で、慣れないホテルに泊まった夜、電気を消してからが本番になる。 明日は朝から大事な仕事がある。 失敗は許されない。 体は疲れている。 条件は揃っている。 なのに眠れない。 布団の感触も、空調の音も、いつもよ…
あくびは失礼か、それとも必要か―マナーの裏で、身体が先に実行していること 2026/02/11Posted in文献, 日常, 神経科学 会議中、ふいに口が開きそうになり、慌ててあくびを噛み殺す。 喉の奥がきゅっと引きつり、首の中で何かが途中停止したような感触が残る。 多くの社会人にとって、この一連の動作は「大人として正しい振る舞い」です。 あくびは集…
体は、食べた瞬間には変わらない―オーツ麦が残した“時間差の反応”を、腸内で読み解く 2026/02/09Posted in健康, 文献, 日常 健康食品には流行があります。 ファッションと同じで、ある時期に評価が高まり、しばらくすると別のものに置き換わっていく。 その流れの中で、私たち自身も、意識するほどではなく、流行に乗ったり降りたりを繰り返しています。 …
円と四角は、なぜ一つの絵に収まったのか―《ウィトルウィウス的人体図》を読み直す 2026/02/07Posted in数学, 文献, 日常, 歴史 十五世紀の終わり、レオナルド・ダ・ヴィンチは一枚の素描を描きました。 円と正方形の中に、手足を大きく広げた人の体が重ねて描かれているその図は、今もなお世界で最も有名な人体図の一つです。 多くの人がその美しさに目を奪わ…
暖かい光の記憶―赤外線が欠けた世界で、私たちの目に起きていたこと 2026/02/05Posted in健康, 文献, 日常, 科学 冬の夕方、低い太陽の光に手をかざすと、理由もなくほっとすることがあります。 キャンプで焚き火を囲んでいるときも同じです。 炎を見つめているだけなのに、目の奥がほどけ、景色の輪郭がやわらぐ。 眩しいわけでも、明るさが増…
患者になりたがる私たち— SNS利用を「依存」と呼ぶことは、本当に救いなのか 2026/02/01Posted in心理学, 文献, 日常 夜、ベッドに腰を下ろした瞬間、特に理由もなくスマホを手に取ってしまう。 画面を閉じたあと、胸の奥に薄い重さが残る。 「またやってしまった」 この一言を、私たちはずいぶん手際よく強い言葉に置き換えてきました。 自分はS…
音楽教育は、貧困による学業の遅れから子どもを守る―アメリカの大規模追跡研究から見えてきたこと 2026/01/28Posted in文献, 日常, 音楽 子どもが新しい言葉を覚える瞬間は、案外あっけないものです。 意味を正確に理解していなくても、音のかたちや使われ方を真似しながら、会話の中に滑り込ませていく。 その様子を見ていると、言葉は教室で与えられるというより、日…
死はいつも、こちら側に残される―日本版デス・リテラシー指標で見えてきた、動けない空白 2026/01/20Posted in心理学, 文献, 日常 フランスの思想家モーリス・ブランショは、「死はいつも他人の死である」という言葉を残しました。 私たちは、自分の死を自分で「見る」ことはできません。 死は、いつも誰かの出来事として、生きている私たちの前に現れます。 病…
空を閉じるという判断―2022年11月4日、ヨーロッパ上空で何が起きたのか 2026/01/18Posted in文献, 日常 空港の案内表示に「遅延」と出ること自体は珍しくありません。 天候や機材、混雑といった理由は日常的で、説明を聞けば納得もできます。 ところが2022年11月4日の朝、ヨーロッパの遅延は別の理由で起きました。 中国の大型…
星三つの激戦地★3と★4のあいだで読者は何を迷っているのか 2026/01/17Posted in文献, 日常, 読書 本を読み終えて、評価を付けようとして手が止まります。 つまらなくはありませんでした。 けれど、胸が高鳴ったかと問われると、そうでもありません。 誰かに強く勧めたいほどでもない。 そんなとき、★3か★4のあいだで指が迷…
紫色の守護者―紅いもに含まれる色素と、体の中で続く防御の話 2026/01/13Posted in健康, 文献, 日常 強い日差しの下で育つ植物は、逃げることができません。 光は恵みである一方、過剰になれば細胞を傷つけ、遺伝情報を壊します。 そこで植物は、自分の内側に防御の仕組みを組み込みました。 その一つが、紫色として私たちの目に映…
ちゃんとしたゆで卵をつくりたい!―あえて火加減を捨てた発想の転換 2026/01/06Posted in文献, 日常, 科学 できあがったゆで卵を割った瞬間に、「あれ?」と思うことがあります。 黄身はちょうどいいのに、白身が落ち着かない。 あるいは白身は形になっているのに、黄身が思ったより重たい。 調理の手順は間違いのないはずなのに、どこか…
2026年を迎えて 2026/01/01Posted inクリニックのこと, 日常 あけましておめでとうございます。 2026年の元日を迎え、こうして皆さんにごあいさつできることを、院長として率直にうれしく思っています。 昨年を振り返ると、「あっという間でした」と軽く言ってしまうには、決して平坦…
会話が途切れた一瞬で、指は画面へ伸びる―不安な心は、なぜ目の前の人よりスマホを選ぶのか 2025/12/29Posted in心理学, 文献, 日常 会話が途切れた、その一瞬です。 気まずさが生まれる前に、指は自然とスマートフォンへ伸びます。 隣に誰かが座っていても、この動きは止まりません。 気づけば、沈黙を埋める相手は人ではなく、画面になっています。 この反射の…
動かしていない時間が、上達を決めていた―休憩中に固まる技能の記憶 2025/12/24Posted in文献, 日常, 神経科学 「音楽は、音符と音符の間にある」 フランスの作曲家クロード・ドビュッシーが残したとされるこの言葉は、芸術の核心を突いたものでしょう。 鳴っている音そのものではなく、そのあいだに生まれる緊張や流れが、音楽を音楽たらしめ…
環境の速度と身体の時間―工業化とミスマッチの進化史 2025/12/18Posted in文献, 日常, 歴史, 自然環境 映画『Koyaanisqatsi(コヤニスカッツィ)』では、雲の影が大地を横切り、光が山肌を流れていく映像が続きます。 そのゆるやかな流れのあと、映像は突然、都市の光の格子へと切り替わります。 高速道路を走る車列が光…
書くことは脳を編み直す―言葉がレジリエンスを育てる理由 2025/12/15Posted in心理学, 文献, 日常 映画『潜水服は蝶の夢を見る』(2007年)。 脳卒中によって身体の自由をほとんど失った編集長ジャン=ドミニク・ボビーは、左目のまばたきだけを使って自伝を書き上げます。 動かない身体は潜水服のように彼を閉じ込め、まばた…
猫は誰に声を向けるのか―玄関100秒のコミュニケーション 2025/12/07Posted in文献, 日常, 生物 ロンドンの歩道を、青年の肩に乗った茶トラが見下ろす。 映画『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』のあの場面では、鳴き声よりも、首の傾け方やしっぽの動きが、青年の表情を変えていきます。 言葉を持たないはずの猫が、確かな…
動き続けるバランス―夫婦の“収入と身体”がつくる交換の力学 2025/11/29Posted in心理学, 文献, 日常 映画『アメリカン・ビューティー』(1999)には、夫婦の経済的な力関係の均衡がきしみ始める瞬間が描かれています。 仕事に押しつぶされかけたレスターは、成功を積み上げる妻キャロリンの姿を前に、自らの価値が目に見えてしぼ…
バットマン効果―日常の「バグ」が優しさを呼び覚ます 2025/11/13Posted in心理学, 文献, 日常 私はマイカー通勤なので、ゆいレールはほとんど利用しないのですが、たまに乗るとその混み具合に驚かされます。 県民としては「利用者が増えているのは良いことだ」と安心する一方で、「空港まで立ちっぱなしは少しつらいな」と内心…
父親との2週間―育休が変える家族の未来 2025/11/07Posted in心理学, 文献, 日常 私が県立中部病院の勤務医だったころ、アメリカ留学帰りの先輩の先生が「産休」はもちろん、「育児休暇」をとったというのを聞いて、素直に驚いたことがあります。 当時、管理職の外科の先生は「自分は子どもの学校行事は一度も観に…
共感の“思い込みギャップ”が孤独を生む―人はなぜ、相手の優しさを過小評価してしまうのか 2025/11/02Posted in心理学, 文献, 日常 新しい環境に足を踏み入れるとき、胸の奥に小さな不安が生まれます。 教室や職場、地域の集まりなど、まわりは知らない人ばかり。 話しかけたいけれど、相手がどう思うかを考えると足がすくむ―そんな経験をしたことがある人は少な…
夜型生活が抱える“食の落とし穴”―気づきが変える深夜の衝動 2025/11/01Posted inマインドフルネス, 健康, 文献, 日常 夜が更けるころ、つい無意識に冷蔵庫のドアを開けてしまう。 小腹が空いているのか、それとも口寂しいだけなのか―自分でも判然としないまま「つまみ食い」をしてしまうことがあります。 夜型の生活が進むなかで、夜遅くに食べる習…
SNS断ちの効果は?―デジタル・デトックスと幸福感、その功罪 2025/10/30Posted in心理学, 文献, 日常 私の娘は、時々「デジタル・デトックス」をするのだと言っていました。 スクリーンタイムが増えて情報の渦に巻き込まれてしまうと、どうも心身のバランスが悪くなるのを感じるのだそうです。 XやInstagramなどのSNSア…
ゲームがくれる「ちょうどいい幸せ」――遊ぶ時間よりも大切なこと 2025/10/18Posted in健康, 心理学, 文献, 日常 子どものころ、ファミコンの電源を切るように言われると、いつも名残惜しくて「あと5分だけ」と懇願した記憶があります。 大人になった今でも、仕事の合間にSwitchを起動してティアキンでライネルを倒し切ると、不思議と気持…