忘れもしない、あの記憶。
テレビの画面に目が離せず、ただ事態が収まるのを待つしかない無力感。
地震大国に住む私たちにとって、地震や津波は日常と隣り合わせの現象です。
もし、ほんの数日でも前に「何か」が分かれば。そんな切実な願いは、長年「地震予知は難しい」という現実に阻まれてきました。
しかし最近、宇宙からその壁に挑む研究者の論文を読み、胸が少し熱くなりました。
地震予知は、その社会的な影響の大きさゆえに、非常に困難な課題です。
確実性の低い予報は、かえって混乱を招きかねません。
それでも研究者たちは、地震の前に現れるかもしれない様々な「前兆」を探し続けています。
その一つが、地磁気の乱れです。
地震直前の地殻(リソスフェア)に溜まった巨大なストレスが、大気を通じて上空の電離層にまで影響を与え、磁場を乱すという仮説(LAICモデル)があります。
この微弱な変化を捉えるため、研究チームが目を向けたのが、欧州宇宙機関(ESA)の「Swarm」衛星でした。
Swarmは地球の磁場を精密に観測するために設計された、いわば「宇宙のコンパス」です。
研究チームは、2025年3月28日にミャンマーで発生したマグニチュード(Mw)7.7の大地震に注目しました。
地震発生前の10日間にわたり、震源地の上空を通過したSwarm衛星の磁場データを詳細に分析しました。
分析対象となった85回の軌道通過のうち、実に22回で磁場の異常(ノイズを除いた残差)が検出されました。
特に顕著だったのは、地震発生の4日前(3月24日)のデータです。
衛星「Swarm Alpha」が震源地のわずか約53.5km上空を通過した際、磁場のY成分(東西方向の成分)に明らかな乱れを記録していました。
さらに研究チームは、検出した異常の「持続時間」や「衛星と震源地の距離」などに基づき、地震の規模を推定する4つの経験式を試しました。
その結果、「距離」を基にした計算式がM7.2という値を導き出しました。
実際のM7.7と比べ、0.5程度の誤差であり、これは有望な結果です。
まるで、地下深くの岩盤が軋む「声」が電離層を震わせ、その微かな「響き」を衛星が聞き取ったかのようです。
また、検出された異常の「エネルギー」(振幅の大きさ)が、570~577という非常に狭い範囲に集中していた点も興味深い発見です。
これがもし、地震に関連する異常に特有の「指紋」のようなものだとしたら、他のノイズと区別する上で強力な手がかりになります。
もちろん、課題は残ります。
地球の磁場は太陽活動など宇宙からの影響も常に受けています。
そのため、観測された異常が本当に地震によるものなのか、それとも太陽嵐などの影響なのかを慎重に見極める必要があります。
今回の研究は一つの事例であり、この手法が普遍的に使えるかどうかは、より多くの地震データで検証を重ねる必要があります。
あの日の無力感を思い出すたび、科学にできることはないのか、と思うことがありました。
しかし、Swarm衛星が捉えたこのデータは、困難とされてきた短期予測の実現に向けて、確かに一歩前進したことを示しています。
地下深くで起こる現象のサインが、数百キロ上空の宇宙空間に現れていた。
この事実は、地球というシステムがいかに精緻に連動しているかを改めて教えてくれます。
この「空からの警鐘」を正しく解読できる日が来れば、それは私たちが揺れに備えるための、心強い武器になるはずです。
参考文献:
Alimoradi, H., Rahimi, H. & De Santis, A. Detection of pre-seismic magnetic field anomalies using Swarm satellite data: a case study of the 2025 Mw7.7 Myanmar earthquake. Sci Rep 15, 36965 (2025). https://doi.org/10.1038/s41598-025-20901-1

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
