「メンタル脳」

 

 

アンデシュ・ハンセン氏が提唱する「メンタル脳」の理論の紹介です。

これは、現代人のメンタルヘルスの問題を、私たちの脳がまだ古代の狩猟採集時代に生きていると錯覚していることに起因すると見ています。

私たちの生活環境は急速に進化しましたが、脳の進化はそれに追いついていません。

SNSやスマートフォン、AIなどの技術的進歩が私たちを取り巻く一方で、脳はまだサバンナで狩猟をしていると思っているのです。

このギャップが、現代の多くのメンタルヘルスの課題につながっています。

では、どうすればこの時代錯誤の脳と現代社会との間で、メンタルを安定させることができるのでしょうか。

ハンセン氏は5つの方法を提案しています。

 

まず、運動の重要性です。

狩猟採集時代には、生き延びるためには身体を動かすことが不可欠でした。

現代でも、定期的な運動はメンタルヘルスにとって非常に有益です。

運動により、ストレスや不安を減少させることができ、うつ病やPTSDに対しても効果があるとされています。

 

次に、信頼できる人々との関係性の構築です。

人間は社会的な生き物であり、他者との深いつながりはメンタルの健康を支える重要な要素です。

ハーバード大学の研究では、幸福と健康の鍵は良好な人間関係にあることが示されています。

 

睡眠もまた、メンタルを安定させるためには欠かせません。

十分な睡眠は、脳が正常に機能するために必要です。

睡眠中には、脳内が整理され、ストレスや不安が軽減されます。

 

SNSやニュースの過剰な摂取を控えることも重要です。

情報過多は、自己評価を下げたり、世界に対する恐怖を増大させたりすることがあります。

適度な情報摂取が、メンタルの安定には不可欠です。

 

最後に、自分と他人にとって意味のあることに没頭することが挙げられます。

没頭することで、時間の感覚を失い、現在に集中することができます。

これは、メンタルヘルスにとって非常に有益な状態です。

 

私たちの脳は過去に生きているかもしれませんが、現代社会で豊かなメンタルヘルスを維持する方法はたくさんあります。

身体を動かし、良好な人間関係を築き、十分な睡眠を取り、情報の摂取をコントロールし、意味のある活動に没頭すること。

これらはすべて、古代のサバンナで生きた先祖たちから受け継いだ脳を現代に適応させ、メンタルを安定させるための鍵となります。

 

 

人の性格は腸内の微生物に支配されている?

 

瀬名秀明「パラサイト・イヴ」は、利己的遺伝子であるミトコンドリアが、生物に寄生して、その宿主を意のままにコントロールするというホラー小説でした。

そこまで極小のお話ではありませんが、細菌やウイルスが、私たちの感情や行動に影響を与えているとしたら?というお話です。

演者のキャスリーン・マコーリフは、アメリカのサイエンスライターで、以前には「「心を操る寄生生物―感情から文化・社会まで」という本を執筆していました。

 

私たちの体内には、私たちのDNAとは違う細胞が約半数存在しています。

つまり、これらは細菌、原生動物、真菌などから成る、目には見えないけれど、確かに存在している共生者たちです。

特に腸内にはこれらの微生物が豊富に存在し、私たちの消化を助けるだけでなく、様々な重要な機能を担っています。

最近よく言われているのは、これらの微生物たちは私たちの脳ともネットワークを構築していて、つまり「会話」をしているのです。

気分、エネルギー、食欲、記憶、そしてもしかすると性格まで、影響を受けているかもしれません。

実験室の中で、特別な環境下で育てられた「バブルマウス」というマウスは、私たちにこの微生物の影響を具体的に示してくれます。

このマウスは微生物を一切持たず、その結果、通常のマウスとは全く異なる行動を示します。

興味や好奇心が著しく低く、学習能力も低下しています。

しかし、通常のマウスから腸内細菌を移植すると、これらのマウスの行動は「正常化」します。

この現象は私たち人間にも当てはまるのでしょうか?

いくつかの研究は、「Yes」と言っています。

例えば、肥満体質の人の腸内細菌をバブルマウスに移植すると、マウスは太り始めます。

また、鬱状態の人からマウスへ腸内細菌を移植すると、そのマウスも鬱に似た症状を示します。

腸内細菌は、神経伝達物質を含む多くの化合物を産生し、迷走神経や血液循環を通じて脳に信号を送ります。

さて、この発見は私たちに何を教えてくれるでしょうか?

まず、私たちの心や体は、決して自分の意思だけでコントロールしているわけではないということです。

私たちは多種多様な微生物との共生の中で生きており、その影響は思った以上に大きいのです。

また、この発見は新たな治療法の可能性をも示唆しています。

迷走神経刺激療法や腸内フローラを調整することで、精神的な疾患や自閉症、さらにはパーキンソン病やALSといった神経変性疾患の治療に新たな道が開かれるかもしれません。

この探求はまだ始まったばかりですが、私たちの「私」とは、実は「私たち」であることを思い出させてくれます。

私たちの行動や感情、さらには健康に至るまで、見えない小さな共生者たちが影響を与えているのです。

科学が進むにつれ、私たちの「共生者」とどのようにより良い関係を築いていくかが、これからの大きな課題となりそうです。

 

瞑想と腸内環境(細菌叢)

 

いろいろな文献を読んでいると、「マジか?」と思えるようなものに出くわします。

研究の発想が面白いものや、「そこまでやるか!」と唸ってしまうようなものもあって、研究者たちの偉大な知識欲に脱帽するばかりです。

今日紹介する研究は、どちらかというと「そうなのか!」の後に「だけど、なんで?」と、謎が謎を呼ぶような感じでした。

例えば、「長期間の瞑想が、『お通じ』にどんな影響を与えるか」という命題を与えられたら、どんな予想をたてますか?

瞑想は、自律神経に良い影響を与えるでしょうし、きっと「お通じ」にも良いはずだと思いますよね。

私も思いました。

ただ、この研究チームの着手方法と着地点が違っていました。

彼らは、チベットの僧侶たちの腸内細菌叢の構成を調べたのです。

最近は、腸内細菌叢を調べるのが流行りではあるのですが、この発想はなかったです。

研究者たちは、腸内の微生物群に、長時間の瞑想がどのような影響を与えるかにフォーカスしました。

上海交通大学医学院の孫穎(Ying Sun)率いる研究チームは、チベットの遠隔地にある修道院を訪れ、37人のチベット仏教僧と19人の瞑想を行わない近隣住民から便のサンプルを収集しました。

僧侶たちは平均約19年間瞑想を続けていました。

研究者たちは、便のサンプルから細菌のDNAを分析し、サンプルに存在する細菌を識別・比較するために一般的に使用される16SリボソームRNA遺伝子に焦点を当てました。

この方法により、腸内の異なる細菌の多様性と豊富さを決定することができました。

さらに、腸内細菌の違いが健康にどのような影響を与えるかを探るため、参加者の血液中のさまざまな生化学指標を測定しました。(つまり健診をしたのです。)

分析の結果、瞑想を行う僧侶とそうでない人々の間には、腸内細菌の構成に違いがあることが明らかになりました。

特に、僧侶の腸内細菌は多様性が少ないものの、健康に良い影響を与える特定の細菌がより多く存在していました。

例えば、プレボテラ属の細菌は僧侶の腸内細菌の42.35%を占め、瞑想を行わない対照群では29.15%でした。

これらの細菌は、うつ病のリスクを減少させたり、脳の報酬反応に影響を与えたりすることが知られています。

さらに、瞑想は、腸のバリアを維持し、免疫反応を調節する代謝経路を確立させていました。

これは、瞑想が抗炎症プロセスを強化して、免疫機能を向上させる可能性があることを示しています。

もちろん、チベットの僧侶と近隣住民との違いは瞑想だけでなく、高地での生活の様式も違いますし、何より食生活が違います。

もしかしたら、飲み水も違っているかも知れません。

私などはへそが曲がっていますから、「瞑想じゃなくて、禅寺の精進料理が理由じゃないの?」と思ってしまいます。

瞑想(マインドフルネス)のメリットは、精神的・身体的に多くの例があがっていますが、これはさすがに我田引水が過ぎるんじゃないのと思ってしまうのです。

けれども、「腸脳力」というぐらいですから、瞑想が腸の細菌叢に影響を与えるというのは、もしかしたら「あり」なのかも知れません。

 

元論文:

Sun Y, Ju P, Xue T, Ali U, Cui D, Chen J. Alteration of faecal microbiota balance related to long-term deep meditation. Gen Psychiatr. 2023;36(1):e100893. Published 2023 Jan 3. doi:10.1136/gpsych-2022-100893

 

 

イヤな表情で食事していると、それを見た人の食事の好みは伝染する

 

グルメ番組を見ていると、本当に美味しそうに食事するタレントさんがいますね。

食レポで情報を詰め込むよりも、よっぽどその表情が料理の美味しさを物語ってくれます。

反対に、苦手な料理を前にした時の人間の表情というのは、かなり正直です。

嫌いな食べ物を不味そうに食べるのは、そばで見ているこちらも不味く感じるものです。

今回紹介する研究テーマがまさしくそれです。

「人が食べている時の表情が、見ている人の好みに影響を与えるか?」

特に、生のブロッコリーを食べる人の表情が、観察者が同じ野菜を手に取る意欲をどのように変化させるかを探求した研究です。

よくそんなテーマを思いついたなと感心しますが、研究者はいたってマジメです。

人間は「観察する生き物」です。

食べ物の選択においても例外ではありません。

この研究では、200人以上の若い女性に、生のブロッコリーを食べる大人の映像を視聴してもらいました。

その映像は、食べる時に、肯定的(笑顔)、中立的、否定的(嫌そうに)の表情をしてもらったものです。

研究者たちは、食行動のモデリングにおける性別差が存在する可能性があるため、女性の反応のみを調査しました。

研究結果は、大方の予想通りといえるものでした。

他人が生のブロッコリーを食べる時にイヤそうな表情を見せると、観察者もそれにひきずられて「好まない」になりました。

ところが、食べる時に笑っていた場合は、そこまでひきずられず、好き嫌いに影響しませんでした。

この現象の一つの説明は、一般的に好まれるかどうかにかかわらず、嫌悪感を示す食べ物を避けることが、不味いものや有害なものを食べるリスクから自分自身を守るためである可能性があります。

動物としての本能のようなものでしょうね。

また、食べ物を食べながら笑うことは、「食べている人が特定の食べ物を好んでいるだけ」というような典型的でない場合を想定しているのかも知れません。

意外に冷静な反応と言えますね。

この研究は、私たちが他人の食べ物に対する反応をどのように観察し、それが私たち自身の食べ物に対する好みや選択にどのように影響を与えるかについて、興味深い洞察を提供しています。

好き嫌いのない子どもに育てるには、少なくとも食べる時にはイヤな表情は避けるべきのようです。

 

元論文:

Edwards KL, Thomas JM, Higgs S, Blissett J. Exposure to models’ negative facial expressions whilst eating a vegetable decreases women’s liking of the modelled vegetable, but not their desire to eat. Front Psychol. 2024;14:1252369. Published 2024 Jan 11. doi:10.3389/fpsyg.2023.1252369

 

 

若者の孤独感への対応策

 

誰もが「孤独」を感じる時があります。

そして、私のような昭和の人間は「孤独をどうこうするのはその人次第」という態度をとりがちなのも事実です。

もちろん、そういう認識でいること自体が、浅薄です。

近年の研究によると、「孤独感」は特に10代後半から20代の若者たちにとって、全体の約40%にものぼると言われています。

これは、ただの一時的な感情ではなく、精神的、身体的健康に深刻な影響を及ぼす可能性があるため、公衆衛生上の優先事項となっています。

孤独は、うつ病や不安、自殺念慮のリスクを高めると広く知られています。

しかし、この感情を軽減するための介入は、これまで主に高齢者を対象に行われてきました。

そこで、マサチューセッツ総合病院の研究チームが、若者を対象とした新しいアプローチを試みました。

それが「レジリエンストレーニング(RT)」と呼ばれるプログラムです。

このプログラムは、自己評価の低さや社会的拒絶への敏感さといった、孤独と関連する問題に焦点を当てています。

RTは、感情調整、自己認識、社会的相互作用の改善を目指し、マインドフルネス、自己共感、メンタライゼーションといったエビデンスに基づくスキルを教える4回のセッションから構成されています。

このプログラムの効果を検証するためのランダム化比較試験では、RTが参加者のレジリエンス関連能力を向上させました。

そして、精神病理学的症状を減少させることが確認されました。

二次分析によると、RTが孤独感の減少にも効果があることが示されました。

具体的には、RTを受けたグループは、待機リストにあったグループに比べると、孤独感が顕著に減少しました。

これは、レジリエンス、マインドフルネス、自己共感の増加が孤独感の減少と有意に関連していることからも裏付けられています。

しかし、この研究はいくつかの限界も持っています。

今まさに問題を抱えている対照群を用意できなかったことや、長期的な効果を評価するためのフォローアップ評価が行われていない点などです。

ただし、この研究はひとつの突破口になる可能性があります。

孤独という闇に包まれた時、私たちは自分自身をより良く理解し、感情を管理する方法を学ぶことで、その闇を少しでも明るくすることができるわけです。

自分自身や周りの人が孤独を感じた時、それに対峙する方法はいくつかあります。

自己共感を育む、マインドフルネスを実践する、そして何よりも、私たちは一人ではないということを思い出すこと。

「思い出す」ことができるかどうかが、大きな鍵にはなりますね。

 

元論文:

DeTore NR, Burke A, Nyer M, Holt DJ. A Brief Resilience-Enhancing Intervention and Loneliness in At-Risk Young Adults: A Secondary Analysis of a Randomized Clinical Trial. JAMA Netw Open. 2024;7(2):e2354728. Published 2024 Feb 5. doi:10.1001/jamanetworkopen.2023.54728

 

 

心と体に良いことは頭にも良い

 

認知症は多くの人が恐れる病気です。

認知症の全てがわかっているわけではないという状況に加えて、誰もがなるかも知れないという心配があるからですね。

ただし、日々の生活習慣を見直すことで、そのリスクを最大40%も減らすことができるとも言われています。

では、なぜ私たちはもっと積極的に生活習慣をより良くしていかないのでしょうか?

生活習慣を変えることは簡単ではありません。

新年の抱負でジムに週3回通うと決めたものの、それを守り続けるのがいかに難しいか、多くの人が経験しています。

特に、今すぐに何かをしても結果が現れるのは何年も後となり、その効果がどのようにして発揮されるのか理解できていない場合、なおさらです。

しかし、認知症となってしまった愛する家族を見守ったことのある人なら、この病気がいかに深刻なものかを知っています。

現在、医療現場で使われるアルツハイマー病の薬剤も、効果的な治療法とは言えず、早期の患者にしか効果がありません。

つまり、生活習慣の改善は、認知症を遅らせる、あるいは発症しないための、現在知られている最善の方法かもしれません。

認知症のリスクを高める変更可能な要因を以下に挙げてみます。

運動不足、過度のアルコール摂取、睡眠不足、社会的孤立、聴覚損失、認知的関与の減少、不健康な食生活、高血圧、肥満、糖尿病、外傷性脳損傷、喫煙、うつ病、大気汚染など。

これらのリスク要因の生物学的メカニズムは様々で、いくつかは確立されたものです。

認知予備力と神経可塑性は、脳が病気や老化のダメージに対抗する能力を指します。

脳の一部に損傷や機能的な損失があっても、他の脳細胞(ニューロン)がより一層活動を強めて補うことができます。

これは、生涯にわたる経験や活動が、病気や老化によるダメージに対する防波堤を築くという理論です。

認知症に関連する多くのリスク要因は、組み合わさって作用する可能性が高いため、全体的な生活習慣アプローチが重要です。

例えば、運動、認知的・社会的関与は、新しい神経接続を成長させ、認知予備力を構築することで、脳の可塑性を維持することが示されています。

ストレスと炎症の役割も重要です。

ストレス反応と炎症は、体が損傷に対して複雑に反応する方法です。

短期的な炎症は自然で良い反応ですが、慢性的または長期的な炎症は正常な機能を乱し、脳細胞にダメージを与えます。

これらのリスク要因とその生物学的経路は、多くの慢性疾患にまたがっています。

何十年にもわたる研究の蓄積された証拠は、「心と体に良いことは頭にも良い」という概念を支持しています。

これは、これらの生活習慣の変更が、認知症のリスクだけでなく、糖尿病、高血圧、心臓の問題のリスクも減らすことを意味します。

取り組むのに遅すぎるということはありません。

人間の脳と体は、生涯を通じて適応と回復力の驚くべき能力を持っています。

毎日1万歩を歩き、食生活を変え、交友関係を強化することが、健康で自立した生活を送るため、または認知症や他の主要な疾患を避けるための、最適な生活習慣といえます。

 

 

「数値化の鬼」

 

やる気が出ないでダラけているなと思ったら、ビジネス書に目を通して「もうちょっと頑張ってみるかな」と奮い立ってみる時があります。

ビジネス書さえも手に取るのが億劫になっている場合は、その時は徹底的に休むようにしていますが、中等度のダラダラぐらいなら、ビジネス書はよい薬になります。

今日、紹介するのはそんな一冊です。

『数値化の鬼』

数値化と聞いて、どんなイメージを持たれるでしょうか。

多くの人が、目標や成果を具体的な数字で示すことを思い浮かべるかもしれません。

しかし、この『数値化の鬼』を手に取ると、数値化の世界がそれだけではないことに気づかされます。

著者の安藤広大さんは、数値化を仕事だけでなく、日常生活全般にわたって活用することの価値を説いています。

この本の魅力は、ただ数値化することの重要性を説くのではなく、それをどのように実践するかに焦点を当てている点にあります。

例えば、目標を設定する際に、ただ「もっと頑張る」と漠然と考えるのではなく、「毎朝6時に起きて、5キロ走る」と具体的に数値で表すことで、目標達成への道のりが明確になります。

そして、その過程でPDCAサイクルを回すことが、目標達成への鍵となります。

PDCAサイクルとは、計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Act)のサイクルのことを指します。

このサイクルを数値化された目標達成に適用することで、目標に対する自分自身の行動が客観的に見え、どこを改善すればよいかが明確になります。

計画を立てる際には、熱意だけでなく、実行可能性を重視することが大切です。

計画は、実際に行動に移せるものでなければなりません。

しかし、計画を立てることだけに時間を費やしてしまうのは避けるべきです。

(計画を立てるのは、とても楽しいのですけどね。私は計画を立てるのが趣味です 笑。)

計画はあくまで手段であり、実行がすべてです。

『数値化の鬼』では、この点に強く焦点を当て、計画を実行に移すための具体的なアドバイスが満載です。

また、数値化を行う上での心構えとして、「なんとなく」を許さない厳密さが求められます。

目標を達成するための数値は、具体的で明確なものでなければならず、その過程での曖昧さを許さない姿勢が重要です。

この本を読むと、数値化が仕事の効率化だけでなく、個人の成長や自己実現にも寄与することが理解できます。

数値化を通じて、自分自身を客観的に見ることができ、それによって自分の限界を超えることが可能になります。

さらに、この本は単なるビジネス書に留まらず、人生を豊かにするための哲学をも含んでいます。

目標を立てて、それを達成する過程で自分自身を成長させたいと考える人にとって、この本は大いに刺激となるでしょう。

数値化の力を借りて、自分の可能性を最大限に引き出してみてはいかがでしょうか。

 

「さようなら」と「goodbye」

 

私にとって英語は「あちら様」の言葉ですから、日本語のように由来を調べることはあまりないのですが、今回は対比の意味もあって調べてみました。

日本語の「さようなら」と英語の「goodbye」です。

「さようなら」は、もともとは接続詞で「左様ならば(そういうことならば)」からきているのだそうです

語感の通り、江戸時代後期に一般化された言葉です。

そういうことならば、何?と思いますよね。

そう、その通り、「さようなら」はもともと接続詞なのです。

そのあとに続くのは、「ごきげんよう」「のちほど」などの別れを表す言葉です。

「そういうことならば、ごきげんよう」

そのあとに「ば」が省略され、別れの言葉の方までもが省略されてしまったのでした。

省略されたというよりも、むしろ敢えて表に出さないことを選んだのかも知れませんね。

それが「粋(いき)」だったのかも。

それにしても、接続詞を別れの言葉とするのは世界の言語の中では非常に珍しいようですよ。

さて、「goodbye」の方は、その起源をたどると、宗教的な意味合いや文化的な変遷が見えてきます。

まず、「goodbye」は「God be with ye」というフレーズが、時を経て変化したものです。

その人との別れに対して、「あなたに神のご加護がありますように」という言葉を贈っていたのです。

しかし、時代が流れ、社会の中で宗教の影響力が変わるにつれて、その言葉も形を変えていきました。

特定の宗教的文脈から離れ、さまざまな文化や人々に受け入れられて、より広範な意味での「別れ」や「再会を願う気持ち」を表すものとなっています。

言葉というのはその変遷をたどると、本当に面白いですね。

 

 

体温とうつ症状との関連

 

このコロナ禍のなかで、毎日の体温測定が習慣化されてきたおかげで、思わぬ発見もありました。

「37℃が私の普通」という人もいれば、「35℃台が自分の平熱だから36.5℃を超えたら微熱」という人もいて、実際にモニタリングすることの意義を再確認したものです。

そして、人の体温は、その日の健康状態や活動レベル、さらには感情の変化によっても変動するものだということもわかりました。

例えば、緊張すると手が冷たくなるというのは、よく経験することです。

つまり、心の状態が体温に影響するということですね。

では、ここで問題です。

「体温が心の状態に影響するのでしょうか?」

そのテーマに取り組んだのが、今回紹介する研究です。

研究チームは、20,000人以上の参加者を対象に約7ヶ月間にわたり、自己申告による体温とウェアラブルセンサーで計測した体温、そしてうつ症状についてのデータを収集しました。

その結果、体温が高いほど、うつ症状の重さに関連していることがわかりました。

具体的には、体温が平均して0.1℃上昇するごとに、軽度のうつ症状を持つ可能性が約3%、中度のうつ症状を持つ可能性が約5.1%、重度のうつ症状を持つ可能性が約11.4%増加しました。

この関連は、年齢や性別、体温の測定時間などの共変量で調整した後も維持されたそうです。

つまり、体温が心の健康に影響を及ぼす可能性があるということですね。

さらに、この研究はうつ病治療における新しいアプローチの可能性を開くものかも知れません。

しかし、なぜ体温がうつ症状と関連するのか、そのメカニズムはまだ完全には解明されていません。

メカニズムはわかりませんが、熱がある時に体と気持ちもつらいのは、自然なことですね。

心が落ち込んだ時に、熱がある時のように、おでこに「冷えピタ」を貼ったりしたら、単純な私は復活するかも知れません。

 

元論文:

Mason AE, Kasl P, Soltani S, et al. Elevated body temperature is associated with depressive symptoms: results from the TemPredict Study. Sci Rep. 2024;14(1):1884. Published 2024 Feb 5. doi:10.1038/s41598-024-51567-w

 

 

高血圧患者の立ちくらみをどうすべきか?

 

多くの患者にとって、血圧の管理は日々の健康維持に不可欠な要素です。

ところが、あまり厳格に血圧のコントロールを行おうとすると、立位低血圧(立ちくらみ)を引き起こすリスクがあります。

そのため、全ての患者に対して積極的であるかというと、必ずしもそうではありませんでした。

特に、低血圧は高齢者の患者において心配されることです。

立ちくらみがひどいと、転倒のリスクが高まりますし、ひどい場合は失神の危険もあるからです。

医師は「この薬を飲んだらフラフラする」という患者さんの訴えに敏感です。

症状が強いようなら、すぐに内服をやめるようにと指示を出すものです。

高血圧治療における新たな視点を投げかけるこの研究結果は、9つのランダム化比較試験(RCT)に基づいた個別患者データのメタ分析から得られました。

その主な発見は、立位低血圧(立ちくらみ)の有無にかかわらず、より積極的な血圧管理が心血管イベントのリスクを低減させる可能性があるというものでした。

具体的には、立位低血圧を有する患者(OH群)において、積極的治療による合併症リスクの相対リスク(Hazard Ratio: HR)は0.83(95%信頼区間: 0.70-1.00)、立位低血圧を有しない患者群で0.81(0.76-0.86)でした。

これは、立位低血圧がある患者においても、積極的な血圧管理が心血管リスクを減少させることを示しています。

多少乱暴な言い方をすれば、「立ちくらみがあったとしても、厳格に血圧をさげた方が、心血管リスクを減らせる」ということです。

一方で、立位低血圧を有する患者における全死因死亡率のHRは0.92(0.72-1.18)と、統計的に有意な差は認められませんでした。

つまり、立ちくらみがあったとしても、積極的に血圧を管理することは安全であるという可能性を示しています。

そうは言っても、実際の日常診療の現場では、なかなか難しい問題です。

「立ちくらみがある患者でも、積極的な血圧管理がもたらすメリットは、潜在的なリスクを上回る可能性がある」ということを、医療提供者の頭の片隅に置いておくぐらいが現実的でしょう。

患者さんの生活の質を向上させ、より健康な未来を実現するために、高血圧の治療戦略について、私たちは常に学び、進化し続けなければなりません。

立位低血圧を有する患者における積極的血圧管理の安全性と効果については、今後さらに研究が求められるものです。

 

元論文:

Juraschek SP, Hu JR, Cluett JL, et al. Orthostatic hypotension, hypertension treatment, and cardiovascular disease: an individual participant meta-analysis. JAMA. 2023;330:1459-1471.