楽器の演奏は脳を強化する

 

私は「楽器を演奏することは高齢者の脳にきっと良いはずだ」と思っている派です。

例えば、クラシック界ではパブロ・カザルスやアルトゥーロ・トスカニーニ、最近お亡くなりになった小澤征爾さんも晩年まで精力的に活動を続け、音楽界に大きな影響を与えました。

ロック界ではミック・ジャガーやポール・マッカートニー。80歳を過ぎてもライブツアーをするなんて、まさに鉄人としか言いようがありません。

ポップス界ではトニー・ベネットやティナ・ターナーがいます。彼らも高齢になっても素晴らしいパフォーマンスを続けてきました。

今までも楽器を演奏することが脳に良い影響を与えるという研究結果が発表されてきましたが、今回、特に高齢者を対象にした新たな研究が報告されました。この研究は、音楽活動が脳の機能的結びつき、つまり脳の異なる部分同士がどれだけうまく連携して働くかを調査したものです。

研究には130名の参加者が含まれ、そのうち65名は若い頃から楽器を演奏してきた人たちで、もう65名は楽器を演奏したことがない人たちです。どの楽器を演奏するのかは限定されておらず、ピアノやギターなど様々な楽器が含まれていました。この二つのグループは、年齢や教育レベルなどの特徴が一致するように調整されていました。

研究者たちは、参加者の脳を機能的MRI(fMRI)でスキャンし、脳の異なる部分がどのように連携しているかを調べました。その結果、楽器を演奏してきたグループは、デフォルトモードネットワーク(DMN)という脳のネットワークにおいて、特定の脳領域間の結びつきが強いことが分かりました。特に、前内側前頭皮質(MPFC)と右側の側頭極や前中心回との間で強い結びつきが見られました。これらの領域は、高次認知機能や運動機能に関与しています。

しかし、他の脳のネットワーク、例えばサリエンスネットワーク(SAL)や前頭頭頂ネットワーク(FPN)においては、楽器を演奏してきたグループと演奏していないグループとの間で有意な違いは見られませんでした。このことから、音楽活動が脳全体の機能的結びつきに与える影響は限定的であることが示唆されます。

この研究は、音楽活動が脳の健康にプラスの影響を与える可能性を示しています。特に、楽器を演奏することが脳の特定の領域間の連携を強化し、それが認知機能や運動機能の維持に役立つ可能性があります。しかし、今回の研究は一時点での観察に基づいているため、因果関係を明らかにするためには長期的な観察が必要です。

音楽を楽しむことは生活に潤いを与えてくれます。その上で脳に良い影響があるのなら、それはまた素晴らしいことですね。

 

参考文献:

Liebscher M, Dell’Orco A, Doll-Lee J, et al. Short communication: Lifetime musical activity and resting-state functional connectivity in cognitive networks. PLoS One. 2024;19(5):e0299939. Published 2024 May 2. doi:10.1371/journal.pone.0299939

 

 

将来的に尿検査が変わる可能性

 

学校検尿もそうですが、健診などでほぼ必ず行われるのが「尿検査」ですね。

尿検査で重要なのが、尿糖やタンパク尿の有無です。

なかでも「尿タンパク陽性」が続くと、腎疾患の存在が疑われるので、二次精査をすすめられることになります。

改めて説明すると、現在の尿検査の流れは、以下のようになります。

尿の定性検査で(+)か(-)かを判定する。

(+)ならば、定量検査を行って、尿にタンパクがどれだけ出ているかを測定する。

尿中のタンパク量が、基準値よりも多く、それが持続しているのであれば、さらなる精密検査を行う。

今回紹介する研究では、CKD患者と健康な人の尿中に含まれるタンパク質を詳しく調べたものでした。

しかも、現行検査の定性や定量ではなく、尿中にどんなタンパク質が存在しているのかを分析したものです。

まず、CKDの進行と尿中のタンパク質の関係を探るために、88人のCKD患者と49人の健康な対照者から24時間尿サンプルを採取しました。

特に注目すべきなのは、いくつかのタンパク質が腎機能と強く関連していたことです。

B2MG、FETUA、VTDB、AMBPなどのタンパク質は、CKD患者において腎機能と強い負の相関を示しました。

つまり、これらのタンパク質の濃度が高いほど腎機能が低下していました。

一方で、A1AG2、CD44、CD59、CERUなどのタンパク質は、腎機能と正の相関を示し、これらのタンパク質の濃度が高いほど腎機能が良好であることが示されました。

さらに、これらのタンパク質の役割を詳しく調べたところ、腎機能と負の相関を持つタンパク質は組織や構造の恒常性、免疫応答に関与していることがわかりました。

一方、正の相関を持つタンパク質は細胞外マトリックスの組織化、細胞接着、凝固、および酵素活性の調節に関与していました。

この結果が示すのは、特定の尿中タンパク質がCKDの早期発見や治療に役立つ可能性があるということです。

具体的には、B2MGやFETUAのようなタンパク質のレベルを測定することで、腎機能の低下を早期に検出し、適切な治療を開始する手助けとなるかもしれません。

また、これらのタンパク質の変動をモニタリングすることで、CKDの進行を抑制する新たな治療法の開発にもつながる可能性があります。

定性や定量検査から、一歩進んだ尿検査が主流になる時代がくるかも知れませんね。

 

参考文献:

Makhammajanov Z, Kabayeva A, Auganova D, et al. Candidate protein biomarkers in chronic kidney disease: a proteomics study. Sci Rep. 2024;14(1):14014. Published 2024 Jun 18. doi:10.1038/s41598-024-64833-8

 

痛風の治療:尿酸値か症状か

痛風は、体内の尿酸が過剰に増えることで関節に結晶ができ、炎症を起こし、激しい痛みを引き起こします。

痛風発作の痛みを一度でも経験したことのある人なら、普段から尿酸値をコントロールする重要性を理解しているでしょう。

しかし、その痛みを忘れてしまった人は「症状がなければいいかな」と治療を中断しがちです。

これは「喉元過ぎればなんとやら」を地で行っていますね。

症状がなくても尿酸値を目標にした治療法(T2T:Treat-to-Target)を選ぶべきか、それとも症状が出たら治療をする方法(T2S:Treat-to-Symptom)を選ぶべきか。

このテーマについて、大規模な研究が行われました。

尿酸値を目標とする治療法、T2Tは血中の尿酸値を0.36 mmol/L(6 mg/dL)以下に保つことを目指します。

一方、T2Sは症状が出たときに対処する方法です。

これら二つの方法を比較するため、8つの病院で308人の痛風患者を対象にした研究が実施されました。

患者は無作為にT2TグループとT2Sグループに分けられ、それぞれの治療を1年間受けました。

その結果、T2Tグループでは痛風の発作が少なく、尿酸値も低く保たれていることが確認されました。

具体的には、T2Tグループの患者は年間平均1.3回の発作を経験しましたが、T2Sグループは1.85回でした。また、

尿酸値が目標以下に達した患者の割合はT2Tグループが72%、T2Sグループは26%でした。

この結果から、尿酸値をコントロールすることが痛風の発作を予防する上で非常に効果的であることがわかりました。

一方で、痛みの程度や生活の質といった二次的な指標については、1年間の観察では大きな差が見られませんでした。

この点については、引き続き2年間のデータを収集し、詳しく分析する予定だそうです。

結論として、「症状がなければ放っておいてもいい」という考え方は否定されたのでした。

尿酸値をしっかりとコントロールすることで、痛風の発作を減らし、生活の質を向上させることができるのです。

しかし、実際には多くの人が症状管理に重きを置いている気がします。

たとえば、健診で「尿酸値が高い」と指摘されても、「症状がないから」と放置している人が少なくないのがその例です。

この研究結果が広く認知されることを期待しているところです。

 

参考文献:

Moses A, Oude Voshaar M, Jansen T, et al. “Treat to Target in Gout Yields Superior Outcomes Compared to Treat to Avoid Symptoms Approach (Results from Gout Treatment Strategy (GO TEST) Overture Trial).” Annals of the Rheumatic Diseases 2024;83:86.

 

 

ポケモンGOの影響力

 

「そう言えば、うちのクリニックに通院中の患者さんが、ポケモンGOにハマって、体重コントロールに大成功したお話をあげたことがあったっけ」と、自分のブログに検索をかけてみたら、2017年の投稿でした。

もう7年前のお話なのですね。

そのポケモンGOの威力は、いまだに世界的にも轟きわたっているらしく、こんなタイトルの調査研究が行われていました。

「ポケモンGOが子どもと青少年の身体活動と心理社会的幸福に与える影響」

この研究で、ポケモンGOをプレイすることで若者の身体活動レベルが一般的に増加したことが確認されました。

ゲームで歩くことや運動する時間が増えるため、よりアクティブな生活の助けとなったのです。

例えば、現在プレイしている人や以前プレイしていた人は、全くプレイしない人と比べて身体活動レベルが高いことも分かりました。

ポケモンGOは、いわば若者にとって有効な運動促進ツールと言えます。

一方で、心理社会的な影響については複雑な様相を呈していました。

ポケモンGOが社交性を向上させる一方で、やはり、やり過ぎることでゲーム依存症のリスクが存在します。

さらに研究者たちは、ポケモンGOの長期的な影響を明らかにするためには、さらに長期間の研究が必要であると指摘しています。

スマホゲームでありながら、身体的にアクティブであるというのは、ポケモンGOは、かなりユニークです。

ゲームのやり過ぎに注意しながら、運動促進ツールとして有効活用する、良い方法を模索していく必要がありますね。

 

元論文:

Liang H, Wang X, An R. Influence of Pokémon GO on Physical Activity and Psychosocial Well-Being in Children and Adolescents: Systematic Review, J Med Internet Res 2023;25:e49019, URL: https://www.jmir.org/2023/1/e49019

 

 

表情豊かな人は社会的に有利

 

私は、世間に出れば、平均的な「50代男性」ではないかと思っています。

平均的というのは、そこに黙って座っていると、機嫌が悪そうではないけれど、かと言って愛想が良いかというとそうでもない感じの、まあ、わざわざ相手にしなくてもよいかなという存在のオジサンという意味です。

その象徴なのが、自分の表情の乏しさにあると思っているのですが、今日紹介するお話は「まあ、そうだろうな」と当たり前に納得する内容でした。

というか、そういうことを改めて研究するのかと、ちょっと引いてしまいました。

研究テーマは「表情が豊かな人は社会的に有利になるか?」

表情が乏しい私の経験からして、そりゃあ表情豊かな人は得しているでしょと即答します。

「それってあなたの感想ですよね?」と言われてしまいそうなので、黙って研究の内容を見てみましょう。

この研究は、日常の様々な状況下での顔の表情の動きを記録して分析するために、まず52人の参加者を集め、特定の相手とビデオ通話をする様子を録画しました。

次に、1315人の参加者で、自由にビデオ通話をする様子を分析しました。

この二つの大規模な実験を通じて、顔の表情がどのようにして他人からの評価や対話の結果に影響を与えるのかを詳しく調べたのです。

結果として、顔の表情が豊かな人は、他人から好かれやすいことがわかりました。

例えば、笑顔が多い人は、他人に協力的で親しみやすいと感じられる傾向があります。

また、顔の表情がはっきりと読み取れる人も、他人からの好感を得やすいことが確認されました。

これは、表情が豊かな人が他人と効果的にコミュニケーションを取る能力が高いことを示しています。

さらに、顔の表情は時間や状況、相手によってもほとんど変わらないことがわかりました。

つまり、顔の表情の動きは性格の一部として定着していることを示しています。

この研究の結果は、顔の表情が単なる感情の表現を超えて、社会的な成功を助ける重要なツールであることを示しています。

そりゃあそうでしょう。

何を考えているかわからないような表情の人間は、信頼関係を築くのは難しいはずです。

顔の表情から、その人の気持ちが読み取りやすい方が、コミュニケーションをとりやすいですし、付き合いやすいです。

人間が社会的な生活を営む以上、至極当然のこと。

「人の顔の表情は、社会的なつながりを強化し、他人とどのように関わるかに深く影響を与える」

ですから、私などは何度不愛想で損をしてきたことか。

 

元論文:

Kavanagh, E., Whitehouse, J. & Waller, B.M. Being facially expressive is socially advantageous. Sci Rep 14, 12798 (2024). https://doi.org/10.1038/s41598-024-62902-6

 

 

透析を受けている人の炎症反応を抑える

 

IL-6(インターロイキン6)は、私たちの体が感染症や傷害から身を守るために生成されるタンパク質の一つですが、これが過剰になると様々な健康問題を引き起こすことがあります。

特に、心臓病や糖尿病を持つ透析患者にとっては、IL-6の高いレベルがさらにリスクを高めることが知られています。

このため、科学者たちはIL-6の作用を抑える方法を見つけようとしてきました。

今回新たに開発された「クラザキズマブ」は、IL-6と結びついてその活動を妨げる抗体です。

つまり、クラザキズマブはIL-6が引き起こす炎症を減らすことで、心臓病やその他の合併症のリスクを減少させることを狙いとしたのです。

最近行われた研究では、心臓病や糖尿病を持つ透析患者127人が参加し、クラザキズマブがどの程度効果があるかを調査されました。

参加者は4つのグループに分けられ、3つのグループはそれぞれ異なる量のクラザキズマブを、そして、もう1つのグループは偽薬(プラセボ)を投与されました。

試験の主な目的は、治療前後で炎症の指標である「高感度C反応性蛋白(hs-CRP)」の変化を調べることでした。

その結果は、非常に有望といえるものでした。

クラザキズマブを投与されたグループでは、hs-CRPのレベルが86%から92%も減少しました。

これに対し、偽薬を投与されたグループでは逆に19%増加しました。

つまり、クラザキズマブは炎症を大幅に抑えることができたのです。

さらに、クラザキズマブは他の炎症マーカー、例えばフィブリノゲンやアミロイドA、リポ蛋白(a)も減少させました。

これらの数値が減ることは、心臓病などのリスクが下がる可能性があることを意味します。

また、血清アルブミンの濃度が上がるという予期せぬ良い効果も見られました。

アルブミンは体の栄養状態や免疫機能に関わる重要な蛋白質です。

透析患者では、特にアルブミン値が低いと、死亡リスクが高まってしまうことが知られています。

一方で、安全性も重要なポイントです。

試験中に重篤な副作用はほとんど見られず、特に最も高用量のクラザキズマブを投与されたグループで感染症の発生が若干多かったものの、全体としては良好な結果でした。

しかし、これだけではまだ結論を出すには早いです。

長期間にわたる効果や安全性を確認するためには、さらに多くの研究が必要です。

この研究から得られた知見は、特定の患者群において、クラザキズマブが心臓病やその他の炎症関連の合併症のリスクを減少させる可能性があることを示しています。

今後、さらに多くの研究が行われることで、クラザキズマブの使用が一般的な治療選択肢となる日も近いかもしれません。

 

元論文:

Chertow, G.M., Chang, A.M., Felker, G.M. et al. IL-6 inhibition with clazakizumab in patients receiving maintenance dialysis: a randomized phase 2b trial. Nat Med (2024). https://doi.org/10.1038/s41591-024-03043-1

 

 

細胞を急ブレーキで休眠させる

 

生物が過酷な環境に直面すると、ほとんどの生物が一時的に活動を停止し、休眠状態に入ります。

具体例としては、水槽を覆う藍藻(らんそう=シアノバクテリア)は、乾燥状態や高温などの厳しい環境下で休眠状態に入り、条件が改善すると活動を再開します。

医学的に身近な例としては、結核菌などもそうですね。

結核菌は、酸素欠乏や栄養不足などのストレス環境下で休眠状態に入り、自らの代謝を低下させてしまいます。

この休眠状態では、結核菌は抗生物質に対しても耐性を持ち、治療が困難になるので厄介なのです。

いずれにせよ、生物にとって休眠とは、エネルギーを節約し、生存の可能性を高めるための自然の防衛機構となります。

今年の初めに、この休眠のメカニズムに重要な役割を果たす「バロン」というタンパク質が発見されました。

バロンは、北極の永久凍土中のPsychrobacter urativoransという低温適応細菌から発見されました。

バロンはリボソームのAサイトという特定の部位に結合し、休眠状態に導きます。

リボソームはタンパク質を合成する工場のようなもので、これが停止すると細胞全体の活動が止まります。

つまり、細胞の活動に急ブレーキをかけることができるのです。

研究によれば、全ての細菌の20%以上がバロンを持っており、この休眠メカニズムを利用しているようです。

それで、生物は極端な温度変化や栄養不足、その他のストレス要因から敏速に身を守ることができるわけです。

バロンの発見は、気候変動に対する生物の耐性研究に新たな道を開く可能性があります。

例えば、農作物の遺伝子にバロンを組み込むことで、干ばつや寒波などの環境ストレスに強い植物を作り出すことができるかもしれません。

また、医療分野でも、病原菌が休眠状態に入るメカニズムを解明することで、感染症の新しい治療法が開発される可能性があります。

このように、バロンというタンパク質の研究は、生命の根本的な理解を深めるだけでなく、実際の問題解決にも大きな影響を与える可能性があります。

また、私たちの未来に向けた科学の可能性を広げていくかも知れません。

例えば、「インターステラー」や「パッセンジャー」などのSF映画ではお馴染みの、宇宙航行時の「人工冬眠」の実現への第一歩かも知れないのです。

そう考えると、ワクワクしますね。

 

元論文:

Helena-Bueno, K., Rybak, M.Y., Ekemezie, C.L. et al. A new family of bacterial ribosome hibernation factors. Nature 626, 1125–1132 (2024). https://doi.org/10.1038/s41586-024-07041-8

 

 

内服のタイミングを体内時計に合わせるとより効果的?

 

高血圧治療において、薬を飲む時間を調整することで、治療の効果が変わるかもしれません。

現在、薬の服用時間は「朝食後」や「夕食後」といった食事の時間に基づいて決められることが一般的です。

この方法は、服薬の習慣を確立しやすくし、薬を飲み忘れることを防ぐために効果的です。

また、食事と一緒に薬を摂取することで、胃腸への負担を軽減し、副作用を抑える効果もあります。

一方、今回の研究では、薬の服用時間を患者個人のクロノタイプ、つまり生体リズムに合わせて調整する方法を提案しています。

クロノタイプとは、個人の朝型・夜型といったサーカディアンリズムの特性を指します。

具体的には、夜型の人は夜に、朝型の人は朝に薬を飲むことで、治療効果を最大化しようというものです。

この研究では、5,358人の参加者が、朝に薬を飲むグループと夜に薬を飲むグループに分けられました。

参加者は事前に質問票に回答してもらい、夜型か朝型かを判断されました。

結果として、夜型の人が朝に薬を飲むと、心筋梗塞や脳卒中のリスクが高くなることがわかりました。

一方、夜に薬を飲むと、このリスクは低くなりました。

朝型の人は、朝に薬を飲むことでリスクが低く、夜に飲むと逆にリスクが高くなりました。

つまり、薬を飲む時間を自分のクロノタイプに合わせることが重要だということです。

具体的には、夜型の人が朝に薬を飲むと、非致死性心筋梗塞(MI)のリスクが1.62倍に増加しますが、夜に飲むとリスクは0.66倍に低下します。

比較

  1. 効果の違い:
    • 食事時間に基づく方法では、一般的な患者全体に対して効果的であるとされていますが、個々のリズムに最適化されていないため、治療効果にばらつきがある可能性があります。
    • クロノタイプに基づく方法は、個々のリズムに合わせることで、より効果的な治療が期待できます。研究では、特に夜型の人が夜に薬を飲むことで、心筋梗塞のリスクが低減することが示されました。
  2. 習慣化のしやすさ:
    • 食事時間に基づく方法は、日常の食事と結びつけることで、薬を飲み忘れるリスクが低くなります。
    • クロノタイプに基づく方法は、患者が自分のリズムに合わせて服用時間を調整するため、習慣化するまでに時間がかかるかもしれません。
  3. 実用性:
    • 食事時間に基づく方法は、既に広く実践されており、特に追加の手間がかからないため、実用性が高いです。
    • クロノタイプに基づく方法は、個々のクロノタイプを評価する手間があるため、医療現場での導入には工夫が必要です。しかし、これにより得られる治療効果の向上を考えると、その価値は高いと言えます。

 

このように、従来の方法とクロノタイプに基づく方法にはそれぞれメリットとデメリットがあります。

どちらの方法がより適しているかは、患者個々の状況や医療現場の環境によって異なるでしょう。

将来的には、クロノタイプに基づく方法が広く普及することになるかも知れません。

 

 

犬とChatできるかも知れない

 

ChatGPTが音声を認識し、まるで実在の人間と会話しているかのようなAIの「振る舞い」には、少なからず衝撃を受けたものでした。

けれども、少し冷静になってみれば、こういう「出来事」はすでにSF小説のなかで青写真として描かれていますね。

例えば、P.ホーガンの「星を継ぐもの」に登場したゾラック(シャピアロン号のコンピューター)は、人類とガニメアンとの邂逅で、異種間の橋渡し役として大活躍していました。

異種間との交流にAIに手伝ってもらう。そういう発想は、人間の得意とするところなのかも知れません。

今回紹介する研究テーマを見て、すぐにゾラックを思い出したのでした。

それは「犬の鳴き声をAIに解読してもらえないか」です。

ミシガン大学とメキシコの国立天体物理光学電子工学研究所の研究者たちが協力し、この新しい可能性を探求しています。

犬の吠え声、唸り声、鳴き声が何を意味しているのか、AIを使って解読しようという試みです。

この研究では、AIが犬の鳴き声を分析し、遊んでいるときの吠え声と攻撃的な唸り声を区別できるかどうかを調べました。

また、鳴き声から犬の年齢、品種、性別を特定することも試みました。

研究チームは、メキシコのテピクとプエブラで74匹の犬から鳴き声を収集しました。

これらの犬は主にチワワ、フレンチプードル、シュナウザーで、5か月から84か月と幅広い年齢です。

録音は犬たちが普段過ごしている家庭環境で行われ、自然な鳴き声を捉えるようにしました。

例えば、見知らぬ人が現れたり、遊んだり、飼い主が愛情を示したり、さらには飼い主が攻撃されるような状況をシミュレートしました。

これらの鳴き声はソニーのハンディカムで録音され、その音声データだけが分析に使用されました。

録音された音声は0.3秒から5秒の短いクリップに分割され、それぞれの状況に基づいて手作業で注釈が付けられました。

注釈は「非常に攻撃的な吠え声」「見知らぬ人に対する普通の吠え声」「飼い主への攻撃に対する吠え声」「遊びの中での吠え声」など、14種類に分類されました。

研究チームは、Wav2Vec2というAIモデルを使って、これらの鳴き声を分析しました。

このモデルは元々人間の音声認識のために開発されたもので、犬の鳴き声にも応用できるように調整されました。

その結果、このモデルは個々の犬を識別したり、品種を特定したりする能力に優れていることがわかりました。

この研究は、動物のコミュニケーションを解読するために、人間の音声処理技術を利用する新しい道を開いたと言えます。

動物の鳴き声に含まれる複雑なパターンを理解することで、動物福祉の向上や人と動物の関係強化(!)に役立つかもしれません。

しかし、この研究にはいくつかの制限があります。

対象となった犬種が限られているため、将来的にはもっと多様な犬種や他の動物種にも研究を広げる必要があります。

私の個人的な願いとしては、イルカもぜひ候補にあげてほしいです。

地球上の多種多様な動物種との会話が可能になれば、遠い未来には、本当の「地球会議」を開催できるかも知れませんね。

 

元論文:

Perez-Espinosa, Perez-Espinosa, Humberto, et al. Towards Dog Bark Decoding: Leveraging Human Speech Processing for Automated Bark ClassificationProceedings of the 2024 Joint International Conference on Computational Linguistics, Language Resources and Evaluation (LREC-COLING 2024) May, 2024. https://aclanthology.org/2024.lrec-main.1432

 

 

腸内の善玉菌を守りながら病原菌をたたく新しい抗生物質

 

これまでにないメカニズムで作用する新しい抗生物質「ロラマイシン」が、最近の論文で紹介されていました。

この薬の最大の特徴は「ダブルセレクティブ」と呼ばれる二重選択性にあります。

ロラマイシンは問題となる病原菌だけを標的とし、腸内の有益な細菌には影響を与えません。

つまり、抗生物質の使用によって起こる腸内細菌のバランス崩壊を防ぐことができます。

具体的には、ロラマイシンはグラム陰性菌と呼ばれる特定の病原菌に対して効果を発揮します。

グラム陰性桿菌は、食中毒、尿路感染症、肺炎、敗血症、コレラなどの原因となることがあり、非常に厄介な細菌です。

さらに、これらの病原菌はしばしば薬剤耐性を持ち、治療が困難な場合が多いのです。

ロラマイシンのメカニズムは、グラム陰性菌が持つ「Lolシステム」と呼ばれる脂質タンパク質輸送システムを妨害することにあります。

これによって、病原性のグラム陰性菌を効果的に攻撃しつつ、腸内の有益なグラム陰性菌やグラム陽性菌には影響を与えないということを可能にしました。

実際の研究では、ロラマイシンが130種類の抗生物質耐性グラム陰性菌に対して効果を示し、マウスの薬剤耐性血流感染症や肺炎を治療しながら、腸内細菌叢を守ることに成功しています。

腸内細菌叢が守られるのは、重要な意味があります。

抗生物質によって腸内の有益な細菌叢が破壊されると、Clostridioides difficileという菌が繁殖し、二次感染として偽膜性腸炎を引き起こしてしまうのです。

ロラマイシンのもう一つの魅力は、細菌の新しい標的を攻撃することです。

多くの抗生物質は既存の薬の改良版ですが、ロラマイシンはまったく新しい標的を攻撃します。

これが、今後の抗生物質開発に大きな貢献をする可能性があります。

ただし、ロラマイシンには耐性が発生しやすいという欠点があります。

これを克服するために、さらに研究が必要です。

将来的には、ロラマイシンを他の抗生物質と組み合わせたり、新たなLolシステム攻撃薬を開発するための基礎として利用したりすることが期待されています。

薬の市場投入には長い時間がかかりますが、今後の研究に期待が寄せられているところです。

 

元論文:

Muñoz KA, Ulrich RJ, Vasan AK, et al. A Gram-negative-selective antibiotic that spares the gut microbiome. Nature. Published online May 29, 2024. doi:10.1038/s41586-024-07502-0