アルフレッド・アドラーは、「すべての悩みは対人関係の悩みである」という言葉を残しました。
この言葉は、人間関係に起因する悩みが人生において非常に重要であることを示しています。
ざっと考えてみても、壁を感じるのは、やはり人間関係の中かも知れませんね。
そんな時、その壁を取り払い、心の距離を縮める手段として、「思いやりトレーニング」が注目を集めています。
元論文はこちら→
Cernadas Curotto P, Halperin E, Sander D, Klimecki O. Getting closer: compassion training increases feelings of closeness toward a disliked person. Sci Rep. 2023;13(1):18339. Published 2023 Oct 26. doi:10.1038/s41598-023-45363-1
人間関係の中でも、特に苦手な人との距離は、心の重荷になるものです。
この研究によれば、「思いやりトレーニング」は人との関係における緊張を和らげ、親密感を高める効果があるとされています。
研究では、108名の参加者がランダムに3つのグループに分けられ、5週間のトレーニングに参加しました。内訳は以下の通りです。
1. 思いやりトレーニング:他者への理解と共感を深めることを目的としています。
2. 再評価トレーニング:感情を再解釈し、その影響を変えることを目指すトレーニングです。
3. イタリア語トレーニング:このグループは中立的に比較対象するグループとして用意されました。
重要なのは、これらのトレーニングがどれも、嫌いな人を直接的な焦点とすることなく実施された点です。
つまり、研究者たちは、トレーニングが人々の一般的な感情や態度にどのように影響を及ぼすかを見るために設計されました。
結果は興味深いものでした。
思いやりトレーニングを受けた人たちだけが、苦手な人に対しての感情の変化を報告したのです。
具体的には、その人に対する幸福の妨げを喜ぶ「シャーデンフロイデ」が減少し、その人への親密感が増したということ。
再評価トレーニングを受けた人たちもシャーデンフロイデの減少は報告されましたが、親密感の増加は観察されませんでした。
イタリア語トレーニングを受けた人たちには、どちらの変化も見られなかったそうです。
この研究から明らかになったのは、思いやりのトレーニングが、ただの感情のコントロールを超え、人間関係そのものを豊かにする可能性があるということです。
まるで心の筋肉トレーニングのように、人との距離感を縮める技術を磨くことができるのですね。
これは、私たちの日常生活にも応用可能な知見です。
苦手な同僚や隣人との関係を改善したい時、思いやりトレーニングは有効なアプローチとなり得ます。
自己理解を深め、他者への共感を高めることは、単に心地よいだけでなく、具体的な対人関係の変化をもたらす可能性があるということです。
実際のトレーニングの内容や具体的なセッションについては、さらなる詳細を求める必要がありますが、この研究から得られる教訓は明らかです。
心に根差した思いやりは、訓練によって鍛え、育てることができるということですね。
そしてそれは、社会的相互作用を豊かにし、私たちの生活をより充実したものにする力を持っています。
ここで、「思いやりトレーニング」について触れておきます。
(論文にはその内容の詳細は読み取れませんでしたが、一般的には以下のようなものをいいます。)
1. 自己理解:自分自身の感情や偏見に気づき、それを理解することから始めます。瞑想や日記を使って、内省を促進します。
2. 共感の練習:ロールプレイやケーススタディを通じて、他者の立場に立って考えることを学びます。他者の感情や状況を想像することで、理解を深めます。
3. 非暴力コミュニケーション(NVC):感情やニーズを非攻撃的な方法で伝える技術を習得します。同時に、相手の感情やニーズを聴き取ることにも焦点を当てます。
4. マインドフルネス:瞑想や呼吸法によって、現在の瞬間に集中する練習をします。これにより、自分の感情や反応を静かに観察し、自動的な反応を減らしていきます。
5. 実践と反省:日常生活での思いやりの行動を積極的に実践し、その結果を反省します。このサイクルを繰り返すことで、学びを深め、行動を変化させていきます。
