ラリー・ジェニングス「Open Travellers」

 

「勝手にマジシャン・シリーズ」の、今回は3回目です。

今回は、私にとって特に思い出深い、ラリー・ジェニングス。

昔、カードマジックの「いろは」も知らない私が、デパートのマジック・コーナーの隅にあった「新版 ラリー・ジェニングスのカードマジック入門」を手にしたのが、彼を知った最初でした。

何しろ本の帯に「カードマジックを始める人必読!」と書いてあります。

なんでも本から入る私にとって、それは見事な殺し文句となりました。(もちろん難しすぎて買ったあと後悔しました。)

 

ラリー・ジェニングスは、1933年にデトロイトで生まれました。

若い頃にはアメリカ海軍に入隊しています。その後、デトロイトに戻ったあと、ボイラー技師として働いていました。

彼の人生の転換期は、ロン・ウィルソンというマジシャンが自宅の近所に移り住んだ時でした。

ウィルソンはジェニングスに多くのトリックを教え、彼の人生に新たな方向を示します。

特に、ポール・カリの「Out of This World」というトリックは、ジェニングスにとって衝撃的な体験となりました。

この出会いが、彼をカードマジックの世界へと導いたのでした。

 

時が流れ、ジェニングスはさらに多くのマジックを学びました。

彼はカリフォルニアへと移住し、「マジック・キャッスル」で、ダイ・ヴァーノンと知り合います。

ヴァーノンはジェニングスの才能を認め、彼を弟子として受け入れました。

そして、ジェニングスはやがて、キャッスルでの公演を始めました。

 

1969年、ヴァーノンとジェニングスは日本を訪れる機会がありました。

その時代、日本では海外の情報があまり入ってこなかったため、ジェニングスの存在はほとんど知られていませんでした。

しかし、彼の訪日は日本のマジシャンたちにとって驚きと感動の連続だったようです。

彼のパフォーマンスは、観客をおおいに驚かせ、さらに笑顔にさせました。

 

ジェニングスのマジックは、奇異なものではなく、基本的な技術に基づいています。

しかし、彼のトリックは非常に完成度が高く、観客を飽きさせることなく、幻想的な世界へと誘うのです。

彼のトリックの中でも、「Open Travellers」と「ワンカップルーティン」は特に印象的でした。

 

しかし、彼のマジックには一つの弱点があると言われていました。

それは、連続して演じると、観客にとって同じような感じに見えることでした。

これは、カードマジックそのものの弱点とも言えます。

しかし、彼のマジックを一つだけ見せると、その美しさと完成度の高さが際立ちます。

 

ジェニングスの物語は、一人の男がマジックの世界に足を踏み入れ、その世界で名を成した物語です。

彼のトリックは今でも多くの人々に愛され、彼の影響は今でも感じられます。

 

YouTubeで、ラリー・ジェニングス本人が演じている「Open Travellers」を見つけました。

日本語訳がついていないので、要約を載せておきますね。

だいたいこういう流れなんだと思ってくれたらと思います。

 

要約:

マジシャンがステージに立ち、手をこうして回転させてカードの扇を作り、トップハットに投げ入れる様子を見たことがあるかもしれません。これを「バックパーム」と呼びますが、非常に難しいテクニックです。私はこのステージで唯一の挑戦者だと思っています。今回は4枚のカードだけを使います。スペードのエース、ハートのエース、クラブのエース、ダイヤのエースです。

まず、ダイヤのエースを手に取り、それを透明にしてみせます。そして、スペードのエースとともに置いてみます。続いて、ハートのエースを手に取り、透明にしてから他のカードと一緒に置いてみます。しかし、見ているあなたは信用していないようですね。でも本当に透明にしています。これにより、一枚のカードだけが残ります。

次に、手に持ったスペードのエースを見せながら、他のカードと一緒に置いてみます。そして、ダイヤのエースとハートのエースが現れていることを示します。同じ手順を3回続けると、あなたも気づくでしょう。ですから、やり方を少し変えることにしました。

今度は、最後のカードを「X」の上に置いてみます。それをこすると、透明になるのです。周りにはいくつかの分子が浮遊しているかのようですが、それを収集して他のカードと一緒に置いてみせます。

 

 

「痛みとイデオロギー」

 

「イデオロギー」という言葉は、オジサンになった今でも日常的に使わない言葉ですし、正直に言うと私にはあまり馴染みがありません。

その「イデオロギー」と「痛みの感受性」を結びつけた最近の心理学研究を目にしました。

 

元論文はこちら→

Pain sensitivity predicts support for moral and political views across the aisle

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37616082/

 

この論文の「痛みの感受性」とは、物理的な痛みに対する個人の感受性の度合いを指します。

研究者は、この感受性が、個人の道徳的、政治的見解にどのように影響を与えるかを調査しました。

どうしてそんなことを考えたのか、その発想というか着眼点が私には理解不能なのですが、簡単に言えば「痛がりは、政治的にどんな態度をとりやすいか?」ということなんでしょうか。

研究は、Spike W. S. Lee博士(トロント大学の准教授でMind and Body Labのディレクター)によって主導されたものです。

研究は、Moral Foundation Theory(道徳的基盤理論)を基に行われました。

道徳的基盤理論とは、人々の道徳的判断と行動を形成する5つの主要な道徳的次元、つまり「基盤」を提唱しているものです。

 

ちなみに、これらの「基盤」とは、以下の通りです。

・「ケア/害」:他者の福祉を保護し、共感を促進する

・「公正/不正」:正義と平等を強調する

・「忠誠/裏切り」:グループアイデンティティと協力に関連する

・「権威/破壊」:権威と社会秩序への尊敬に焦点を当てる

・「聖性/堕落」:純粋さと神聖さの概念に関連する

 

研究者は、7,360人のアメリカ人参加者を対象に、道徳的基盤、政治的態度、投票の傾向、政治的人物への支持、および議論の多い政治的問題に対する態度などを調査しました。

参加者はまた、物理的な痛みの刺激に対する感受性を測定するPain Sensitivity Questionnaire(PSQ)も実施しました。

その結果がこうです。

「痛みの感受性が強い人は、自分の信念と対立する者を支持する傾向にあった」のだそうです。

つまり、リベラル派の中で、痛みの感受性が強いほど、保守的な道徳的基盤、例えば、忠誠/裏切り、権威/破壊、聖性/堕落のようなものを強く支持する傾向がありました。

一方、保守派の中で、痛みの感受性が強いほど、リベラル派の道徳的基盤、例えば、ケア/害と公平/不正のようなものを強く支持する傾向がありました。

言い換えると、「痛みの感受性が強い」+「リベラル派」では、トランプのような共和党の候補者に投票する可能性が高く、逆に、「痛みの感受性が強い」+「保守派」では、バイデンのような民主党の候補者に投票する可能性が高かったのだそうです。

つまり、痛みの感受性が強い人は、普段支持していない政治的な見解や道徳的な価値観を支持する傾向があるというのです。

 

意味がわかりません。痛みと関係あるのがそもそも驚きです。

いったい「痛みの感受性の強い人」とは、どんな人たちなんでしょう?

考えるならば、彼らは、異なる視点や価値観に開かれた心を持っていて、一方的な見解や価値観に囚われることなく、多面的な視野を持つことができる…のかも知れません。

「他人の気持ちがわかりすぎるほどわかってしまう」のでしょうか?

 

しかし、この研究にはもちろん限界があります。

自己報告に基づく調査なので、社会的望ましさやバイアスの影響を受ける可能性があります。

また、研究はアメリカの参加者を中心に行われたため、他の国や文化の人々にも同じ結果が当てはまるかは不明です。

 

 

「ポジティブ錯覚」

 

人々が自分に対して持つ「ポジティブ錯覚」

これは、「自分の能力や未来に対して楽観的に考える傾向がある」という現象です。

この錯覚は、20 代、30 代から年齢が上がるにつれて強くなることが研究で明らかにされています。

お年寄りの方々は特にこの錯覚を持ちやすいのだとか。

この錯覚がどうしてもたらされるのか、その背後にはいくつかの要素があります。

 

1. リスクの過小評価: 人々は自分に対して楽観的に考えるため、リスクを過小評価することがあります。例えば、タバコを吸う人が肺がんのリスクを過小評価する、自分の運転能力を過大評価して保険に入らないなどの現象があります。

2. 前向きな側面: しかし、この錯覚には危険だけではなく、前向きな側面もあります。人類が未開の地を開拓し、世界に広がっていったのも、このポジティブ錯覚があったからではないかと言われています。彼らはジャングルの向こう側に自分の可能性と希望を見ていたのでしょう。

3. 成長のカギ: 私たちの脳は、このポジティブ錯覚を生み出す仕組みを持っているのです。この錯覚は、自分たち自身の成功の鍵、成長のカギとなることができるのです。

 

この「ポジティブ錯覚」は、人々が普段気づいていない心の深い部分に潜んでいます。

科学的なアプローチでそのメカニズムを追求することは、これからも続いていくことでしょう。

さて、この「ポジティブ錯覚」の話を聞いて、人生の中でどう活用できるのか、考えてみるのも面白いかもしれませんね。

自分に対する過小評価や過大評価を理解し、バランスを取ることで、より健全な自己認識と成長への道が開かれるのかもしれません。

この錯覚の中には、人生そのもののミニチュアが詰まっているような気がします。

自分に気づかない部分があるからこそ、成長があるのです。

そして、その成長を支えるのが、この「唯一の錯覚」なのかもしれません。

未来は、この錯覚の先に広がっているのかもしれません。

自分自身の成長のために、この錯覚を理解し、活用してみるのはいかがでしょう。

 

 

モーツァルトの子守唄が新生児の痛みを和らげる

 

昔、よく耳にしていた「モーツァルトを聴くと頭がよくなる」という効果を「モーツァルト効果」と呼んでいました。

その話題について、このブログでも取り上げたことがありました。

 

「モーツァルト効果」(2016年2月25日付)

 

結論として、クリストファー・チャブリスという研究者が、その効果についての錯覚や思い込みを解き明かしたというお話でした。

 

けれども、古今東西の研究者は、よほどモーツァルトが大好きなのでしょう。

今度は、新生児のお話です。

 

元論文はこちら→

Saminathan Anbalagan  et al. Music for pain relief of minor procedures in term neonates. Pediatr Res. 2023 Aug 29. 

 

モーツァルトの子守唄を新生児に聴かせることで、医療処置中の痛みが和らぐ可能性があるという話です。

100人の新生児が被験者となり、かかとから採血をする一般的な医療処置を受けた際の、痛みのレベルを評価されました。

評価方法は非常に緻密で、赤ちゃんの顔の表情、泣き声、呼吸パターン、手足の動き、そして警戒度を総合的に評価するスコアリングシステムが用いられた。

最高スコアは7点で、このスコアが低いほど痛みが少ないという評価です。

研究の結果、モーツァルトの子守唄を聴かせた赤ちゃんの痛みのスコアが、音楽を聴かなかった赤ちゃんよりも有意に低下していました。

具体的には、音楽を聴いた赤ちゃんの痛みのスコアは処置中に4点で、1分後には0点にまで下がりました。

一方、音楽を聴かなかった赤ちゃんは、処置中に7点、1分後には5.5点、さらに2分後には2点と、明らかに痛みが長引いていました。

この研究が示すのは、音楽が痛みを和らげる効果を持つ可能性があるという点であり、今後は他のオーディオツールが同様の効果を持つかどうかも調査されるべきだとされています。

音楽が心に与える影響は以前から知られていますが、この研究によってその影響が身体にも及ぶことが明らかになりました。

この発見は、音楽が医療現場で有用なツールとしての可能性を秘めていることを示唆しています。

今後、音楽や他のオーディオツールが医療現場でどのように活用されるかは、非常に興味深いテーマですね。

ちなみに、以前の研究で、母親の声を聞くことで早産児が痛みを感じにくくなるという報告があります。

 

 

お気に入りの曲で内面を探る

 

音楽は人の心を明るくしたり、悲しみに寄り添ってくれたり、勇気を鼓舞したりしてくれるものです。

その音楽が、その人の人間関係にも関連しているらしいという研究が報告されました。

 

「お気に入りの曲は、その人のアタッチメントスタイルを反映する」

元論文はこちら→ Alaei, R., et al. (2022) Individuals’ favorite songs’ lyrics reflect their attachment style. Personal Relationships.

 

それによると、好きな曲の歌詞は、「アタッチメントスタイル」に密接に関連しているというのです。

「アタッチメントスタイル」という概念は、人が恋愛関係や友情、家族との関係においてどのように感じ、考え、行動するかを分類するためのものです。

 

大まかには四つのカテゴリーに分けられます。

1. 不安型(Anxious): このタイプの人は、拒絶されることを非常に心配し、関係において多くの安心感を求める。恋人や友達に対して、頻繁に確認を求めることが多い。

2. 回避型(Avoidant): このタイプの人は、感情や親密さを閉ざし、独立を重視する。彼らは、関係がうまくいかないと予想して、そのような状況から逃れようとする。

3. 混合型(Anxious-Avoidant): このタイプの人は、不安と回避の両方の特性を持っている。一方で依存し、一方で距離を置くという、矛盾した行動を取ることが多い。

4. 安全型(Secure): このタイプの人は、関係に対して楽観的な見方を持っている。オープンなコミュニケーターであり、パートナーを信頼する。

 

これらのアタッチメントスタイルは、幼少期の親子関係に起源を持つとも言われています。

例えば、親が安全な環境を提供してくれた人は、大人になっても安全型のアタッチメントスタイルを持つ可能性が高いのだそうです。

面白いのは、これらのアタッチメントスタイルが、好きな音楽や歌詞にも反映されるということです。

不安型の人は、失恋や別れの歌に共感することが多く、回避型の人は、独立や自由を讃える歌に引かれる傾向があるのです。

 

では、この音楽がその人の関係スキルにプラスになるのか、マイナスになるのか。

研究者は、それが次の研究課題であると言っています。

個人的には、そこが知りたいところだったんですが(笑)

 

ともあれ、自分自身のアタッチメントスタイルに気づくことが、この問題に対する第一歩であるとも指摘しています。

つまり、自分の好きな曲が何かを知ること、その歌詞が何を言っているのかを考えることで、自分自身の心の中を少しでも理解する手がかりを得ることができるというのです。

その歌詞に耳を傾け、心に響くものが何かを見つけることで、人は自分自身や他者との関係性について、新しい視点や洞察を得ることができるかも知れません。

とはいえ、音楽はあくまで一つの手段ですし、全ての答えがそこにあるわけではないことを忘れずにいたいですね。

 

 

「低用量アスピリンが2型糖尿病を予防する」

 

65歳以上の高齢者が低用量(毎日100mg)のアスピリンを摂取すると、2型糖尿病の発症リスクが15%低くなる可能性があるという報告がなされました。

(ヨーロッパ糖尿病研究協会(EASD)の年次総会での発表)

この研究は、オーストラリアのモナッシュ大学 ソフィア・ズンガス教授によるもので、炎症を抑制するアスピリンが、糖尿病の予防においてさらなる研究の対象となるべきだと結論づけています。

糖尿病の予防にアスピリンが効果的であるという話は、医学界だけでなく、一般の人にも大きな関心を持たれるテーマかも知れません。

しかし、アスピリンの摂取は糖尿病のリスクを減らすかも知れませんが、出血のリスクを高める可能性もあります。

つまり、一枚のコインには必ず裏表があるのです。その裏側に潜むリスクも考慮に入れる必要があります。

そのため、もちろん医師の指導のもとで行うべきです。

糖尿病の予防に関する研究は日々進んでいます。

新しい薬や治療法が次々と開発されているが、それらがすべての人に適しているわけではありません。

糖尿病は多くの要因によって引き起こされる複雑な疾患です。

その予防や治療には個々の状況に応じたアプローチが必要です。

アスピリンが糖尿病の予防に効果的である可能性があるという研究結果は、確かに興味深いものです。

しかし、それがすべての高齢者に適用できるわけではありません。

糖尿病の予防や治療は、一筋縄ではいかない問題であることを、この研究は改めて示しているのだと思います。

 

新しい情報が出るたびに、それをどう活用するか、どう解釈するかは、個々の判断に委ねられます。

しかし、その判断をする前に、しっかりとした医療のアドバイスを受けることが何よりも重要です。

 

 

「VRで飽きさせてしまう」作戦

 

私はあまり視聴したことはないのですが、仮想現実(VR)が日常生活に与える影響は多岐にわたっています。

ついにというか、こんな研究報告がありました。

 

「VRと香りが食習慣に与える影響について』

元論文はこちら⇨ Benjamin J. Li et al, Exploring the effects of habituation and scent in first-person 360-degree videos on consumption behavior, Scientific Reports (2023).

 

シンガポールの南洋理工大学(NTU)の研究チームが、「キャンディを食べる様子をVRで繰り返し視聴させたら、キャンディに対する欲求を減少させた」という報告をしています。

この研究では、VRやAR(拡張現実)のヘッドセット、360度の動画、モーショントラッキングなどの先進技術を用いて、視聴者を動画の中に没入させる「イマーシブビデオ」が用いられました。

その結果、キャンディを食べる動画を30回(!)視聴した視聴者は、キャンディの摂取量が、平均で約3分の1(32%~38%)減少しました。

「食べるのを見せつけられるのだから、余計に欲しくなるんじゃないの?」と思うのですが、キモはその視聴回数にありそうです。

心理学的メカニズムとしては、繰り返し同じ刺激にさらされるのですから、その刺激への反応が減少する、つまり「慣れ」が生じたのではないかということでした。

研究者たちは、このメカニズムを活用して、過食症や食欲の管理に役立てることができるのではないかと指摘しています。

さらに、この研究では視覚刺激に加えて、チョコレートの香りを嗅がせる実験も行われました。

その結果、チョコレートの香りを嗅ぎながら動画を視聴した参加者は、香りがない場合よりも、キャンディの摂取量が11%少なくなったそうです。

このような研究は、食に対する欲求や行動に影響を与える要素が何なのかを明らかにしています。

つまり、視覚、聴覚、嗅覚といった感覚が組み合わさることで、食べ物に対する反応がどのように変わるのかを理解する手がかりとなります。

味覚異常を訴える方が、等しく食欲を落としてしまうのと同様です。

 

ところで、視聴者が動画を見ている間に何を考えているのか、とても気になります。

もしかしたら、視聴者自身がキャンディを食べていると錯覚しているのかもしれませんね。

それとも、単にうんざりしてしまったとか。

VR(仮想現実)の実験は、とにかく被験者の経験としてはリアルですから、長期的な影響を常に考慮しなければなりません。

「キャンディを見るのもイヤ!」になっていないでしょうか?

だとしたら、一種の拷問に近い気がします。

 

 

腎臓異種移植の進歩

 

臓器移植の分野は、その進歩が人々の命を救う可能性を秘めています。

アラバマ大学バーミングハム校の研究では、10種類の遺伝子が編集された豚からの腎臓が、脳死が確認された50代の男性に移植されました。

 

元論文はこちら→Normal Graft Function After Pig-to-Human Kidney Xenotransplant

https://jamanetwork.com/journals/jamasurgery/fullarticle/2808483

 

一方、ニューヨーク大学ランゴン移植研究所では、一つの遺伝子修正と、豚の胸腺腺を移植することで、腎臓の拒絶反応を防ぐ方法が開発されました。この腎臓は、32日間人体で正常に機能しているのだそうです。

 

元論文はこちら→Pig Kidney Xenotransplantation Performing Optimally After 32 Days in Human Body

https://nyulangone.org/news/pig-kidney-xenotransplantation-performing-optimally-after-32-days-human-body

 

このような研究が進むと、臓器不足という深刻な問題に一石を投じることになり、多くの人々に新たな希望がもたらされる可能性があります。

しかし、課題が多いのも事実です。

まず、社会的・倫理的問題が先行します。

動物の権利、遺伝子編集の倫理、そして移植手続きのコストなど、多くの側面で慎重な議論が必要です。

また、異種移植が成功した場合の長期的な影響や、拒絶反応のリスクもまだ完全には解明されていません。

異種移植がこれまで一般的でなかった理由はいくつかあります。

主な障害としては、人体が異種の臓器を拒絶するリスクです。

これは、人と豚の遺伝的な違いに起因するものです。

また、遺伝子編集技術の未熟さも大きな要因でした。

しかし、最近の遺伝子編集技術の進展と、拒絶反応を抑制する新しい方法の開発によって、この障害が次第に解消されつつあるのです。

医療は確実に進化しています。

その進化が人々の生活をどれだけ豊かにできるかは、これからの研究で明らかにされるものです。

 

 

エスプレッソとアルツハイマー病

 

よっぽどコーヒー好きの研究者が多いのか、「コーヒーは体に良い」というお話が、時々世の中に出てきます。

今回の研究は、エスプレッソに含まれる特定の成分が、アルツハイマー病の発症に関与するとされる「タウ蛋白質」の凝集を防ぐ可能性があるというものです。

 

元論文はこちら→“Espresso Coffee Mitigates the Aggregation and Condensation of Alzheimer′s Associated Tau Protein”
Journal of Agricultural and Food Chemistry

 

あくまでも実験室のレベルですが、研究者たちは、エスプレッソの抽出液、カフェイン、そして他の化合物が、タウ蛋白質の凝集を防ぐ効果があることを発見しました。

特に、エスプレッソの全成分が最も効果的だったそうです。

つまり、エスプレッソの成分が、今後アルツハイマー病に対する新たな治療法のヒントを与える可能性があります。

エスプレッソは、多くの人にとって一日の始まりを告げる飲み物ですし、その効果が健康にも寄与するとしたら、それはまさに一石二鳥ということになりますね。

もちろん、この研究が示すのは、まだ始まりに過ぎません。

これが現実の治療につながるまでには、さらなる研究と長い時間が必要です。

とはいえ、コーヒー豆を挽く瞬間やエスプレッソマシンのスイッチを入れる行為が、これからは新たな意味を持つようになりますね。

エスプレッソ愛好家の皆さん、次にその濃い一杯を口にするときは、ただ「おいしい」と感じるだけでなく、その一杯が持つ未知の可能性にも思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

 

 

「自分を変える方法」

 

 

「自分を変える方法」などというタイトルからして、私が最近めっきり読まなくなったジャンルの本です。

ただ、年齢を重ねれば重ねるほど変化し続けることが大切だというのはわかっているつもりなので、筆者には失礼ですが、パラパラ読みでもいいから目を通すようにはしています。

 

行動科学者ケイティ・ミルクマンが教える「自分を変える方法」は、まず人の行動原理をよく理解することが出発点になります。

キーワードは「適切なタイミング」「何度も挑戦」「誘惑を味方に」

 

まず、「適切なタイミングで行動を始める」

例えば、元旦に「今年は毎日運動する!」と誓ったら、その誓いを実行に移す確率が高くなります。

新年、誕生日、卒業、新しい仕事…。

これらの「新しいスタート」の瞬間は、人が行動を変える最適なタイミングとされています。

このタイミングを逃さずに行動を始めることが、習慣化への第一歩を踏み出します。

 

次に、「何度も挑戦することが大事」

その新年の誓いの成功率は約20%というデータがあります。

20%という数字は意外に少ないと思うでしょうか?

けれども、その20%(具体的には5人にひとり!)が人生を変えたとしたなら、決して小さい数字ではありませんね。

失敗を恐れずに何度も挑戦すれば、いつかはうまくいく確率が高くなります。

例えば、起業家の多くは何度も失敗を経験しています。

しかし、その失敗が次の成功への糧となります。

失敗を恐れず、何度も挑戦することで、成功への道が開かれます。

 

そして、最も興味深いのが「誘惑を味方につける」

誘惑というのは、人が目の前の快楽に負けて、長期的な目標から逸れてしまう大きな要因です。

まさしくネガティブなイメージがこびりついた言葉です。

では「誘惑を味方につける」とは、いったい何でしょう?

例えば、ダイエット中の人が運動後にだけケーキを食べると決めることで、運動そのものが楽しみに変わります。

また、仕事や勉強に集中できない人は、25分間集中して作業した後に、5分間だけスマートフォンをいじる時間を作ります。

この短い休憩が、次の25分間の集中力を高めます。

さらに、貯金が苦手な人は、買い物をする前に一定の額を貯金するルールを作ります。

この習慣が身につくと、ショッピング自体が貯金の動機となるわけです。

そのものズバリ「ニンジン作戦」ですね。報酬を利用するのです。

 

行動科学の力を借りて、自分をうまくコントロールすることができれば、自分を高みへと押し上げていくことができるというわけです。

(理屈では、そうなんですけどね。笑)