遅咲きの暴君王―ティラノサウルスはいつ大人になったのか

遅咲きの暴君王―ティラノサウルスはいつ大人になったのか

 

博物館に並ぶティラノサウルスの骨格は、いつも威圧的な姿を見せています。

巨大な頭骨、太い脚、圧倒的な体の大きさ。

その姿から私たちは、「これほど強い存在なら、若いうちに一気に成長したに違いない」と自然に考えてしまいます。

速く、強く、大きくなることが生き残りの条件だという感覚は、現代社会に生きる私たちの価値観とも重なっています。

 

これまでの研究も、そうしたイメージを裏づけてきました。

骨の中に刻まれた成長の区切りを数えると、ティラノサウルスは思春期の時期に急激な成長を示し、比較的若い年齢で成体に達したように見えたからです。

しかし、その読み方には一つの前提がありました。

はっきり見える区切りだけを「一年分の成長」として採用し、見えにくいものは最初から考えに入れていなかったのです。

 

今回の研究は、その前提そのものを見直しました。

骨の断面をより詳しく観察し、光の当て方を変えながら、これまで見過ごされてきた細かな境目まで拾い直したのです。

それらも成長の記録として扱ったとき、ティラノサウルスの成長の姿はどのように変わるのか。

研究者たちは、そこに注目しました。

 

調べられたのは脚の骨でした。

体重を支える骨には、成長の履歴が比較的よく残ります。

通常の観察では見えにくい細い線や、近くに集まって並ぶ線も含め、いくつかの解釈を比べながら、どの考え方が全体として無理なく説明できるかが検討されました。

 

その結果、これまでとは異なる成長像が浮かび上がってきました。

ティラノサウルスは、短期間で一気に巨大化したのではなく、成長の速度を何度も落としながら、長い時間をかけて体を大きくしていた可能性が高いのです。

急加速する短距離走ではなく、一定の歩幅で長い距離を進むような成長だった、と言い換えることもできます。

 

新しい成長モデルでは、ティラノサウルスが体の成長をほぼ終えるのは35歳から40歳前後と考えられています。

これは、これまでの推定よりも十数年遅い時期です。

20代のティラノサウルスは、まだ成長の途中にあり、長いあいだ亜成体、つまり大人になりきっていない状態で過ごしていた可能性があります。

巨大なあごや体の完成には、勢いよりも長い年月の積み重ねが必要だったのです。

 

この結果が興味深いのは、恐竜の寿命が長くなったという点だけではありません。

「早く成長することが成功につながる」という見方そのものが、観察のしかたによって作られていた可能性が見えてくるからです。

成長の節目をはっきり決めたくなるのは人間の側の都合であり、骨そのものは「ここからが大人だ」と明確に示してくれるわけではありません。

 

化石には数の限界があり、すべての成長段階が均等に残っているわけではありません。

それでも、見えにくかった成長の区切りを拾い直すことで、ティラノサウルスは時間をかけて成熟していく生き物だった姿が見えてきました。

完成した姿だけを見てきた私たちの視線が、少しだけずれる。

その変化こそが、この研究がもたらした大きな意味なのかもしれません。

 

参考文献:

Woodward HN, Horner JR. Prolonged growth and extended subadult development in the Tyrannosaurus rex species complex revealed by expanded histological sampling and statistical modeling. PeerJ. 2025;13:e20469. Published 2025 Dec 16. doi:10.7717/peerj.20469

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。