ちゃんとしたゆで卵をつくりたい!―あえて火加減を捨てた発想の転換

ちゃんとしたゆで卵をつくりたい!―あえて火加減を捨てた発想の転換

 

できあがったゆで卵を割った瞬間に、「あれ?」と思うことがあります。

黄身はちょうどいいのに、白身が落ち着かない。

あるいは白身は形になっているのに、黄身が思ったより重たい。

調理の手順は間違いのないはずなのに、どこか噛み合わない。

完璧とはかけ離れたゆで卵に、ちょっと残念な感じです。

 

原因ははっきりしています。

卵の中身は同じ条件では固まりません。

白身と黄身では、固まりやすい温度が異なります。

白身は高めの温度が良いですし、黄身はそれより低い温度が最適です。

鍋の温度を一つに決めると、どちらかをゆずらなければなりません。

低温に寄せれば白身が頼りなくなり、高温に寄せれば黄身が重くなります。

この折り合いを、長いあいだ「火加減」と呼んできました。

 

この研究は、その考え方から一歩離れます。

注目したのは温度そのものではなく、時間の使い方です。

殻を割らずに、卵を100℃の湯に2分、次に30℃の水に2分浸します。

これを8回繰り返し、合計32分とします。

温度を一定に保ちません。

外側の条件を意図的に切り替えます。

 

すると、卵の中では違いが生まれます。

白身は高温の域を何度も通り、形を作りあげるための条件をクリアします。

一方、黄身の中心温度はおよそ67℃付近に保たれていて、過度に硬くなりません。

数字の上でも、実際に割ってみて測定しても同じでした。

食感を確認すると、白身は低温調理より明らかに硬く、けれど硬ゆでほどには硬くありません。

黄身は硬ゆでより柔らかく、低温調理に近い仕上がりです。

実際に人が食べて確かめても、同じ印象でした。

 

ここで重要なのは、特別な器具を使っていない点です。

どの温度を、どの順番で与えるかという発想です。

卵の外側の条件を変化させると、白身と黄身のそれぞれの反応は違ってきます。

その差を利用しました。

これまで勘に委ねてきた部分を、熱の伝わり方とタンパク質の変化として整理し直しています。

 

もちろん制約はあります。

卵の大きさや初期温度が変われば、同じ周期が最適とは限りません。

内部の流れや水分移動は単純化されています。

それでも、この研究が示したのは、特定の茹で方の優劣だけではありません。

失敗として受け入れてきた現象に、別の扱い方があるという点です。

 

卵を割る前、殻の中で何が起きているかは見えません。

けれど、時間の与え方を変えるだけで、結果は変わるようです。

次にゆで卵をつくるとき、温度だけでなく、その順番を思い出す人が出てくるかもしれません。

完璧なゆで卵が作れるのなら、試してみたくなりますよね?

それもまた立派な実験だと思いますから。

 

参考文献:

Di Lorenzo E, Romano F, Ciriaco L, et al. Periodic cooking of eggs. Commun Eng. 2025;4(1):5. Published 2025 Feb 6. doi:10.1038/s44172-024-00334-w

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。