木星のまわりを回っている衛星エウロパは、太陽系の中でも注目されてきた天体です。
その理由は、分厚い氷の下に液体の海があり、そのさらに下には岩があると考えられているからです。
水と岩がふれ合う場所は、生命にとって大切だと考えられてきました。
こうした考え方は、地球での経験にもとづいています。
地球の深い海では、岩が割れて新しい面があらわれ、海水と反応し続けています。
その反応によって生まれるエネルギーが、小さな生き物の活動を支えてきました。
生命は、ただ水があるだけの場所ではなく、変化が続く場所で生きてきたのです。
では、エウロパも今、同じような状態なのでしょうか。
これまでは、木星の強い重力によってエウロパの中がゆさぶられ、海底の岩も動いていると考えられてきました。
岩が動けば、水が深いところまで入りこみ、反応が続くはずだと想像されてきたのです。
しかし、最近の研究は少しちがう様子を示しています。
エウロパの海底は、私たちが思っていたほど活発ではないかもしれません。
地球の海底のように、岩が次々と割れて動き続けている環境とは、少し様子がちがう可能性があるのです。
ここで大切なのは、「動いていない」という言葉の意味です。
岩があまり割れないということは、水と岩の反応が新しく起こりにくいということでもあります。
化学反応は、一度だけ起きればよいわけではなく、何度もくり返されることでエネルギーを生み出します。
その流れが弱くなると、生命が利用できるエネルギーも少なくなっていきます。
この研究が問いかけているのは、「生命が存在できるかどうか」だけではありません。
「生命を長い時間、支え続けることができるかどうか」が問題になっています。
もし海底の動きがとても小さいままだと、エネルギーが新しく生み出されにくい世界になってしまうかもしれません。
とはいえ、すべての可能性がなくなったわけではありません。
海底の浅いところでは、小さな割れ目を通して反応が続いているかもしれません。
また、放射線によって分子がこわれることが、別のエネルギー源になる可能性も考えられています。
ただ、それらは地球の深海のように力強い変化ではなく、とてもゆっくりとしたものです。
エウロパの海底が教えてくれるのは、遠い宇宙の話だけではありません。
水や岩があるだけで十分だ、という私たちの考え方そのものです。
生命にとって本当に大切なのは、何かがあることよりも、その状態が続き、変わり続けることなのかもしれません。
氷の下に広がる暗い海は、その問いを私たちに投げかけています。
参考文献:
Byrne PK, Dawson HG, Klimczak C, et al. Little to no active faulting likely at Europa’s seafloor today. Nat Commun. 2026;17(1):4. Published 2026 Jan 6. doi:10.1038/s41467-025-67151-3

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
