吐き出すという判断―猫のペリットと、初期ペルム紀の捕食者が共有していた身体の知恵 2026/02/12Posted in文献, 歴史, 生物 私たちが「吐しゃ物」と聞いてまず思い浮かべるのは、猫が毛や骨をまとめて吐き出すペリットかもしれません。 あれは体調不良でもなんでもなく、消化できないものを一度体内で集め、途中で外に出す、ごく普通の生理反応として知られ…
見終えたはずの標本が、もう一度口を開くとき―ゲーテの琥珀に閉じ込められていたのは、アリではなく私たちの注意だった 2026/02/10Posted in文献, 生物, 科学 ドイツ中部の町ワイマールにある旧邸宅。 その廊下の一角に、長いあいだ動かされることのなかった木製のキャビネットがあります。 引き出しには、石や鉱物、植物片が詰め込まれ、数えれば一万八千点を超える自然物が収められていま…
植物は状況を解釈している―長期電気信号観測が捉えた、ストレス対応の違い 2026/02/04Posted in文献, 生物, 科学 鉢植えの土が乾いてきても、植物はすぐには萎(しお)れません。 葉はハリを保ち、昨日と同じ姿をしています。 そのあいだ、植物の内部では、水が減っているという情報が処理され、まだ耐えるのか、方針を切り替えるのかが検討され…
わからないと認めたとき、科学は前に進む― 進化の袋小路に立つ「キノコのゴジラ」 2026/02/03Posted in文献, 歴史, 生物, 科学 “それ”の高さは最大8メートル。 太さは直径1メートル近くに達します。 人が横に立てば、見上げるしかない円柱状の存在が、4億年前の地球で、陸上に突き立っていました。 枝も葉もなく、根が広がる様子もない。 ただ巨大な柱…
自分を差し出す匂い — アリのサナギが放つ「利他的サイン」 2026/02/02Posted in文献, 生物, 科学 集団の中で体調が悪くなったとき、人はなるべくそれを隠そうとします。 弱っていると知られれば、役割を外されたり、距離を置かれたりするかもしれないからです。 学校でも職場でも、少し無理をして平然を装う場面は珍しくありませ…
遅咲きの暴君王―ティラノサウルスはいつ大人になったのか 2026/01/29Posted in文献, 生物, 科学 博物館に並ぶティラノサウルスの骨格は、いつも威圧的な姿を見せています。 巨大な頭骨、太い脚、圧倒的な体の大きさ。 その姿から私たちは、「これほど強い存在なら、若いうちに一気に成長したに違いない」と自然に考えてしまいま…
盗み聞きで学んでいた―ギフテッドの犬たちが覚えていた「物の名前」 2026/01/24Posted in文献, 生物, 科学 家の中で、人は犬に向かって話しているつもりでも、犬は別の場所で耳だけをこちらに向けていることがあります。 名前を呼んでいないのに反応する。 視線は合っていないのに、音だけは確かに拾われている。 多くの場合、それは偶然…
巨大な草食恐竜がまだ「手」を持っていた頃―骨格に残された、進化の途中 2026/01/19Posted in文献, 生物 博物館のホールで見上げる竜脚類の巨体は、太古の建造物に似ています。 ブラキオサウルスやディプロドクスといった巨大恐竜たちは、その重さを支えるために四肢を太い「柱」へと変え、大地をゆっくりと踏みしめていました。 しかし…
終わりは、いつ終わるのか―境界線の上で見つかった、アンモナイトの短い余命 2026/01/12Posted in文献, 歴史, 生物, 科学 地層の境界は、一本の線として描かれます。 白亜紀と古第三紀の境目も、崖の断面では薄い層として現れ、「ここで時代が切り替わった」と説明されます。 その線は便利で、理解もしやすい。 けれど自然が、その線を知っているかどう…
猫は何を話しているのか―ミャーとゴロゴロが分かれた理由 2025/12/28Posted in文献, 生物, 科学 私のクリニックは、猫と暮らしている“猫派”のスタッフが多いです。 話を聞くと、猫の鳴き声を聞いただけで状況が分かるのだと言います。 空腹なのか、かまってほしいのか、あるいは少し機嫌が悪いのか。 猫の鳴き声は、意味を運…
シャチが黙るとき―異種の知性が接続される海 2025/12/27Posted in文献, 生物 ドキュメンタリー映画『オーシャンズ』には、解説がほとんどありません。 海が広がり、生き物が現れ、互いの距離が変わっていくだけです。 そこに友情や物語は与えられず、どこにいるのか、どこに向かうのかだけが展開されていきま…
言葉を拾う犬―ラベル・ラーナーという“稀な知性” 2025/12/19Posted in文献, 生物 世界には、言葉を“音”ではなく“構造”として受け取る犬がいます。 その数、わずか十数頭。 研究者たちは彼らを ラベル・ラーナー(label-learner)と呼び、別の知性として扱ってきました。 新しいおもちゃを…
T. レックス の幼体ではなかった―ナノティラヌスが描く“もう一つの捕食者” 2025/12/11Posted in文献, 歴史, 生物, 科学 映画『ジュラシック・パーク』(1993年)の豪雨のシーンで、ティラノサウルスが闇を裂くように現れる場面があります。 観客はあの巨体に圧倒されますが、もし画面の端に、もっと細身で俊敏な影が潜んでいたとしたらどうでしょう…
猫は誰に声を向けるのか―玄関100秒のコミュニケーション 2025/12/07Posted in文献, 日常, 生物 ロンドンの歩道を、青年の肩に乗った茶トラが見下ろす。 映画『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』のあの場面では、鳴き声よりも、首の傾け方やしっぽの動きが、青年の表情を変えていきます。 言葉を持たないはずの猫が、確かな…
細胞を動かす“連結のフック”―キネシン-2が荷物を選ぶ仕組み 2025/12/02Posted in文献, 生物, 科学 映画『ヒューゴの不思議な発明』には、止まった自動人形の内部で、少年が小さな歯車の欠けを見つける場面があります。 大きな機構よりも、見落としがちな細部が全体の動きを左右する。その構図は、細胞の中にも息づいています。 …
カメレオンの眼はなぜ別々に動くのか――視神経に仕込まれた“たるみ”の進化 2025/11/22Posted in文献, 生物 昭和40年男の自分にとって、カメレオンといえば仮面ライダー第6話の「カメレオン男」でした。 体色を変え、壁をよじ登り、左右に飛び出した眼球がぎょろりと動く。 あの怪人像が、幼い感覚を今もどこかで支配している。 しかし…
その翼竜は海を濾していた―捕食者の吐き戻しが語る進化の系譜 2025/11/21Posted in文献, 生物 映画『ジュラシック・ワールド』で、翼竜の大群が観光客に襲いかかるシーンは衝撃的でした。 空から急降下し、鋭い嘴(くちばし)で人を捕らえるあの獰猛(どうもう)な姿は、多くの人にとって「翼竜」のイメージそのものかもしれま…
ウニは脳がないのではなく、脳だけを持っている 2025/11/16Posted in文献, 生物, 科学 グレッグ・イーガンの長編『順列都市』では、人間の意識がデータとしてスキャンされ、コンピュータ上で「コピー」として生き続ける未来が描かれます。 そこでは、私たちの「自己」や「意識」は、頭蓋の中の脳という器官にすべてが収…
「見て学ぶ」は人間だけじゃない―インコも見せた「第三者模倣」 2025/09/19Posted in文献, 生物, 科学 私が研修医になったばかりの頃、1年目はとにかく先輩医師のそばについて一緒に行動することが課せられました。 そして、彼らの細かな所作を観察するのです。 患者さんにどう接するのか、どんな情報を重視するのか、どの手順で検査…
内的モデルの科学 ― あなたの見える「普通」は、誰かの「普通」じゃない 2025/09/03Posted in文献, 生物, 科学 犯罪捜査の世界で、こんな話があります。 コンピュータで作られたモンタージュ写真よりも、訓練を受けた技術者が描いた似顔絵のほうが、犯人の検挙につながるケースが多いというのです。 ソフトウェアは目や鼻を組み合わせることは…
風を読む鳥―アカアシカツオドリの省エネ飛行術 2025/08/14Posted in文献, 生物, 自然環境 私たち人間が、乗り換え案内アプリで楽なルートを探すように、海を生きる鳥もまた、日々の移動に知恵を絞っています。 インド洋のチャゴス諸島に暮らすアカアシカツオドリもその一例です。 彼らの主食は、海面を滑空するトビウオ。…
童謡?を歌うヒョウアザラシ―そのメロディーに込めたメッセージ 2025/08/11Posted in文献, 生物, 自然環境 南極の氷の世界。 繁殖期を迎えたオスのヒョウアザラシは、水中で何時間もぶっ通しで歌い続けるのだそうです。 これは求愛や縄張りを主張するための行動だとされています。 彼らは数種類の決まった鳴き声を組み合わせて、個体ごと…
テレビ好きの犬たち―画面の向こうに何を見ているのか 2025/07/30Posted in文献, 日常, 生物 家で飼っている犬が、テレビに映った馬に向かってキャンキャンと吠え立てている。 かと思えば、サスペンスドラマのドアベルの音を聞いて、玄関へすっ飛んでいく。 現代ではそんな光景も決して珍しくなくなりました。 アメリカでは…
足跡は語る―動物たちのグレートジャーニー 2025/07/10Posted in文献, 生物, 自然環境 2001年に公開されたフランスのドキュメンタリー映画『WATARIDORI』(Le Peuple Migrateur)は、渡り鳥の視点そのものになって、彼らの長大な旅を追体験させてくれます。 スタッフは鳥たちを雛の時…
四季をめぐるネズミの「おしゃべり」―声でつながる社会の仕組み 2025/06/29Posted in文献, 生物, 自然環境 私がイメージするネズミのコミュニティと言えば、なんといっても名作アニメ『ガンバの冒険』です。 ガンバとその仲間たちは困難を乗り越えながら、力を合わせて冒険を繰り広げていきます。 そこには、実験室のケージを回る小さなネ…