鉢植えの土が乾いてきても、植物はすぐには萎(しお)れません。
葉はハリを保ち、昨日と同じ姿をしています。
そのあいだ、植物の内部では、水が減っているという情報が処理され、まだ耐えるのか、方針を切り替えるのかが検討されています。
今回の研究は、その判断の途中経過を、葉の電気信号というかたちで捉えました。
植物が電気信号を使って情報をやり取りしていること自体は、古くから知られていました。
光、傷、乾燥といった刺激に応じて、葉の電位が変化することも報告されています。
ただし、それらの多くは短時間の観測でした。
刺激に対する即時反応は見えても、その後どう振る舞いが変わっていくのかまでは追えませんでした。
理由は単純で、長く測れなかったからです。
電極を刺せば植物を傷つけ、葉の表面に置く電極は乾燥して外れます。
安定して記録できるのは、せいぜい短い時間でした。
測定の制約が、植物の振る舞いを「反射的な反応」に見せていたのです。
この研究では、葉を傷つけず、しかも同じ場所に長く留まり続ける電極が用いられました。
貼り付けて終わりではなく、葉の成長や微細な凹凸に馴染みながら、電気的な変化だけを拾い続ける仕組みです。
その結果、これまで点としてしか見えなかった反応が、時間の流れとして立ち上がってきました。
乾燥が始まった初期、見た目に変化が出る前、光を当てた直後の電気応答は一度大きくなります。
植物は水不足を感じ取り、感度を上げています。
しかし萎(しお)れが始まると、その反応は弱まります。
無反応になったのではありません。
備える段階から、耐える段階へと、態度が切り替わったのです。
昼と夜でも振る舞いは異なります。
昼は光に応じた電位変化が前に出ますが、夜になると、電位は土の水分状態と歩調を合わせるように動き始めます。
植物は一日を通して同じ判断を繰り返しているわけではありません。
時間帯ごとに、重視している情報が違います。
この判断には複数の伝達手段が関わっています。
カルシウムイオンは電気信号を広げる役割を担い、活性酸素種は状態を共有する信号として働きます。
乾燥の初期では両者が動き、進行するとカルシウムの比重が高まります。
植物はストレスを一括りにせず、段階に応じて使う言葉を選び直しているように見えます。
同じ水の問題でも、塩ストレスではこの振る舞いは現れませんでした。
水が足りない状況と、水はあるが危険な状況。
植物はそれらを異なる事態として扱っています。
この研究が明らかにしたのは、新しい反応ではありません。
新しく見えるようになった時間です。
私たちはこれまで、短い観測で植物を理解しようとしてきました。
その結果、植物は反応が遅く、単純な存在に見えていました。
しかし長く聴いてみると、植物は即断せず、状況を見極め、判断を更新し続けていることがわかります。
葉の電気信号は、これまで取りこぼされてきた思考の途中経過を、ようやく残し始めたのです。
参考文献:
Gao H, Shen H, Zhang X, et al. Revolutionizing neural regeneration with smart responsive materials: Current insights and future prospects. Bioact Mater. 2025;52:393-421. Published 2025 Jun 13. doi:10.1016/j.bioactmat.2025.06.003

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
