強い日差しの下で育つ植物は、逃げることができません。
光は恵みである一方、過剰になれば細胞を傷つけ、遺伝情報を壊します。
そこで植物は、自分の内側に防御の仕組みを組み込みました。
その一つが、紫色として私たちの目に映るアントシアニンです。
サツマイモの断面に現れる濃い紫は、単なる色彩ではありません。
あれは、細胞の中で発生する活性酸素を受け止め、遺伝子を守るために作られた分子の集合体です。
色がついたのではなく、機能を持つ構造が、結果として紫に見えている。
この順序を取り違えると、この話は表層的に聞こえてしまいます。
沖縄の空港や観光地で目にする紅いも菓子の紫も、同じ自然の理屈から生まれています。
主に使われる「ちゅら恋紅(こいべに)」という品種にも、アントシアニンは豊富に含まれています。
紫外線が強い環境で育つ植物が、内側に防御壁を厚くするのは、むしろ自然なことです。
ただし、ここで立ち止まって確認しておきたい違いがあります。
紫なら何でも同じ、ではない。
この研究で扱われた「アヤムラサキ」という品種の紫は、少し性格が違います。
含まれるアントシアニンは、有機酸が結合した「アシル化」という形をとり、熱や光に対して壊れにくい構造をしています。
食品加工の場面で色が残りやすいという特徴は、ここから生まれています。
研究は、さらに一歩踏み込みました。
この防御色は、ヒトの体の中に入ったらどうなるのか。
動物実験では、アヤムラサキ由来の色素を摂取したあと、血液の中からアントシアニンそのものが検出されました。
完全に分解されるのではなく、構造を保ったまま体内に現れていたのです。
結果としては地味ですが、見方を変えるには十分でした。
色は、消えていなかった。
さらに、肝臓に強い負荷をかけた条件下では、その負担が和らぐ傾向が見られました。
糖を摂ったあとの血糖の上がり方が緩やかになる現象も観察されています。
ただし研究者は、これを即座に「効能」とは呼びません。
血中に入って働いた可能性と、腸内で反応した可能性を、慎重に並べて考えています。
人を対象とした観察でも、同様に慎重な記述が続きます。
一定期間、紫肉サツマイモ由来の飲料を摂取した人の中には、肝機能を示す数値が改善した例がありましたが、すべての人に同じ変化が起きたわけではありません。
条件がそろったときに、反応が現れる。
表現は、そこまでに抑えられています。
ここで、沖縄の紅芋に話を戻します。
ちゅら恋紅のアントシアニンも、植物としての防御という点では同じ役割を担っています。
ただ、分子の構成はアヤムラサキとは異なり、体内でどの形で存在するのか、どこまで届くのかについては、同じ水準の検証は行われていません。
つまり、紫は同じでも、体の中でたどる道筋が異なります。
この研究が示そうとしているのは、「紫の食品は体にいい」という単純な結論ではありません。
植物が身を守るために作った防御色が、人間の体の中で、どこまで防御として振る舞い続けるのか。
その境界線を、初めて具体的に照らしたという点に価値があります。
次に紫色のサツマイモ菓子を目にしたとき、その色がどこで生まれ、どこまで続いているのかを、ふと思い出す。
そのくらいの距離感で、この研究を日常の風景に戻した方がよさそうです。
参考文献:
Kano M, Takayanagi T, Harada K, Makino K, Ishikawa F. Antioxidative Activity of Anthocyanins from Purple Sweet Potato, Ipomoea batatas Cultivar Ayamurasaki. JARQ. 2003;37(3):167-173. doi:10.6090/jarq.37.167

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
