映画『ジュラシック・ワールド』で、翼竜の大群が観光客に襲いかかるシーンは衝撃的でした。
空から急降下し、鋭い嘴(くちばし)で人を捕らえるあの獰猛(どうもう)な姿は、多くの人にとって「翼竜」のイメージそのものかもしれません。
しかし、もし翼竜の中に、現代のフラミンゴやヒゲクジラのように、水辺で静かにプランクトンを濾(こ)して食べるものがいたとしたらどうでしょう。
最近ブラジルで発見された化石は、まさにそんな翼竜の存在を、非常にドラマチックな形で私たちに示してくれました。
翼竜の中には、クテノカスマ科(Ctenochasmatidae)と呼ばれる、現代のヒゲクジラのように細かい歯で水中の小さな獲物を濾し取ることに特化したグループが存在しました。
特に南米アルゼンチンで見つかった種が有名でしたが、これまで熱帯地域からの確実な記録はありませんでした。
今回、ブラジル北東部のアラリペ盆地にあるロムアルド層(約1億1千万年前の地層)で、長年博物館に保管されていた一つの化石が注目されました。
この化石は、通常の状態で死んだ生物のものではなく、「吐き戻し石(レグルギタイト)」と呼ばれる、捕食者が消化しきれなかった骨や鱗などを吐き出した塊の中に保存されていたのです。
この石灰質の塊を詳細に調べた結果、中には少なくとも2個体分の翼竜の吻(ふん:口先のこと)の断片と、4匹の魚の化石が密集していました。
この翼竜は新種と断定され、『バキリブ・ワリザ(Bakiribu waridza)』と命名されました。
「バキリブ」とは、この地域の先住民カリリ族の言葉で「櫛(くし)」を意味し、その特徴的な歯並びを表しています。
* 非常に細長く伸びた顎。
* 顎には、まるで櫛の歯のように細かく密集したブラシ状の歯が並んでいました。その密度は1cmあたり約17.6本、個体全体の総歯数は推定440本から568本にも達すると計算されています。
* 歯の断面は、近縁種の多くが円形であるのに対し、バキリブは「亜四角形(subquadrangular)」というユニークな形状を持っていました。
系統分析の結果、バキリブはアルゼンチンのプテロダウストロに最も近い仲間であることが分かりました。
歯の密度や長さといった特徴は、より原始的な種と、より進化した種とのちょうど中間的な段階を示しており、濾過摂食という戦略がどのように進化していったのかを知る上で、重要な姿となりそうです。
そして何より興味深いのは、この化石が「吐き戻し石」であったという事実です。
これは、バキリブがより大きな捕食者に食べられたことを示す動かぬ証拠です。
同じ塊から見つかった魚の状態や、この地域に生息していた大型の捕食者の存在から、犯人はスピノサウルス科の恐竜である可能性が最も高いとみられています。
1億年以上前の生態系で繰り広げられた「食うか食われるか」の生々しい瞬間が、捕食者の吐き戻しという形で奇跡的に保存されていたのです。
もちろん、この化石は捕食者のお腹を経由しているため、バキリブが元々魚たちと同じ場所(ロムアルド層が堆積した沿岸域)に生息していたのかは断定できません。
捕食者が内陸の湖沼などでバキリブを捕食し、その後、海辺に移動して吐き出した可能性も残されています。
映画で描かれる獰猛な翼竜のイメージとは裏腹に、太古の空には実に多様な生態が存在していました。
博物館の収蔵庫に眠っていた一つの化石が、単なる新種というだけでなく、捕食者の「食べ残し」であったとは。
化石は、生物が「そこにいた」という記録以上に、「どのように生き、どのように最期を迎えたか」という深い物語を秘めていることを改めて感じさせます。
この発見は、太古の熱帯の空にも、静かに水面をかすめる飛行生物がいたことを鮮やかに教えてくれました。
参考文献:
Pêgas, R.V., Aureliano, T., Holgado, B. et al. A regurgitalite reveals a new filter-feeding pterosaur from the Santana Group. Sci Rep 15, 37336 (2025). https://doi.org/10.1038/s41598-025-22983-3

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