吐き出すという判断―猫のペリットと、初期ペルム紀の捕食者が共有していた身体の知恵

吐き出すという判断―猫のペリットと、初期ペルム紀の捕食者が共有していた身体の知恵

 

私たちが「吐しゃ物」と聞いてまず思い浮かべるのは、猫が毛や骨をまとめて吐き出すペリットかもしれません。

あれは体調不良でもなんでもなく、消化できないものを一度体内で集め、途中で外に出す、ごく普通の生理反応として知られています。

食べたものをすべて最後まで処理する必要はない、という身体の判断です。

 

約2億9千万年前、その判断を下した存在がいました。

現在のドイツ中部、初期ペルム紀の洪水原です。

研究者たちが見つけたのは、41個の小さな骨が不規則に固まった、数センチほどの塊でした。

一見すると、偶然集まった骨片のようにも見えます。

 

ところが詳しく調べると、この塊はただの散乱ではありませんでした。

CTスキャンで内部を観察すると、骨は一定の向きにそろい、密に詰め込まれていました。

さらに、骨の周囲の化学組成を調べると、糞に特徴的なリンの濃集がほとんど見られませんでした。

これは、長い消化管を通過した排泄物ではなく、胃の段階でまとめられ、口から外に出たものであることを示しています。

 

つまりこれは、化石になった吐しゃ物です。

 

中に含まれていた骨は一種類ではありませんでした。

小型の爬虫類、素早く走る中型動物、さらに大型草食動物の一部までが混ざっていました。

捕食者は特定の獲物だけを選んでいたのではなく、その場で得られるものを飲み込み、消化できる部分だけを体に取り込み、処理しきれない骨をまとめて吐き出していたと考えられます。

 

この塊を吐き出した「主」は、当時の陸上生態系でも最大級の肉食動物でした。

研究では候補が二つに絞られています。

ひとつは、背中に帆をもつことで知られるディメトロドン。

もうひとつは、オオトカゲに似た体つきをもつタンバカカーニフェクスです。

どちらも体長は1メートルに満たないものの、この地域では頂点に位置する捕食者でした。

 

共通しているのは、歯が鋭い一方で、骨を細かく噛み砕く構造ではない点です。

獲物を丸ごと、あるいは大きな塊のまま飲み込み、消化できない部分は体外に排出する。

その食べ方は、現代の大型トカゲやワニにも重なります。

 

想像してみてください。洪水原のどこかで、ディメトロドン、あるいはタンバカカーニフェクスが獲物を飲み込み、歩き、しばらく体内で処理を進めます。

そしてある時点で、体が判断します。

ここまでだ、と。

必要なエネルギーは取り込んだ。

だが、この骨は残す。

そうして胃の中でまとめられた塊が、口から外に出され、地面に落ちます。

 

それは失敗の痕跡ではありません。

危険になりかねない硬い骨を体内に残さず、次の行動に移るための調整です。

機会があれば食べるが、無理はしない。

この柔軟さこそが、長く生き延びる捕食者の条件でした。

 

私たち自身も、似た判断を日々繰り返しています。

詰め込みすぎた予定を取り消す。

抱えきれない考えをいったん手放す。

体や生活が「これ以上は入らない」と告げるとき、私たちは途中でやめます。

 

初期ペルム紀の地層に残されたこの小さな骨の塊は、選び直すという行為が、思考よりも先に身体に備わっていたことを伝えています。

ディメトロドンであれ、タンバカカーニフェクスであれ、吐き出したのは失敗ではありませんでした。

あれは、生き延びるための、ごく自然な判断だったのです。

 

参考文献:

Rebillard, A., Jannel, A., Marchetti, L. et al. Early Permian terrestrial apex predator regurgitalite indicates opportunistic feeding behaviour. Sci Rep 16, 1087 (2026). https://doi.org/10.1038/s41598-025-33381-0

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。