私たち人間が、乗り換え案内アプリで楽なルートを探すように、海を生きる鳥もまた、日々の移動に知恵を絞っています。
インド洋のチャゴス諸島に暮らすアカアシカツオドリもその一例です。
彼らの主食は、海面を滑空するトビウオ。
この鳥の日常を、GPSや小型カメラで追いかけた研究から、風との実に巧みな付き合い方が見えてきました。
その巧みな飛行の一端は、この映像からも見てとれます。
巣から餌場へと向かう「往路」で、彼らは追い風や横風を好んで選びます。
いわば風に背中を押してもらう省エネ航法で、これにより余計な羽ばたきを減らしつつ、地面に対する速度を上げるのです。
しかし、巣に帰る「復路」では、風へのこだわりは少し薄れます。
帰るべき場所が定まっているため、風を待つより最短距離を優先するのでしょう。
それでも強い横風はうまく利用して、スピードに乗って帰還します。
ところが、いざ食事となると話は別です。
彼らは、むしろ風が強い日を好んで採餌する傾向があります。
移動では厄介な風が、ここでは歓迎されるのです。
その理由は、彼らのごちそうであるトビウオにあります。
トビウオは、強い風を受けるほど、より長く、遠くまで滑空できるのです。
鳥に装着されたビデオカメラは、15回の捕獲試行のうち14回が、空中での追跡だったことを記録しています。
風が強いほど、獲物が空中にいる時間が長くなり、狩りの好機が増えるというわけです。
アカアシカツオドリにとって、風は単に移動を助けたり妨げたりするものではありません。
移動コストを左右する計算すべき相手であり、同時に、食卓を豊かにしてくれる恵みでもあります。
暮らしの場面に応じて、風との関係性を柔軟に変えています。
地球温暖化により風のパターンや強さが変化する中、この研究は、風が海鳥の生態に及ぼす影響を理解する上で重要な知見を提供しています。
特に熱帯地域の海洋生態系を守るためには、こうした風の影響を考慮した保護策が必要になりそうです。
海鳥たちが今後も巧みに風を利用して飛び続けられるよう、人間も自然の微妙なバランスに敏感でありたいものです。
参考文献:
Dunn RE, Trevail AM, Nicoll MAC, Freeman R, Braman CA, Clark BL, Mitchell C, Schiffmiller AW, Wood H, Votier SC. Commuting in crosswinds and foraging in fast winds: the foraging ecology of a flying fish specialist. Proc Biol Sci. 2025 Aug;292(2052):20250774. doi: 10.1098/rspb.2025.0774. Epub 2025 Aug 6. PMID: 40758188; PMCID: PMC12320947.

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
