博物館のホールで見上げる竜脚類の巨体は、太古の建造物に似ています。
ブラキオサウルスやディプロドクスといった巨大恐竜たちは、その重さを支えるために四肢を太い「柱」へと変え、大地をゆっくりと踏みしめていました。
しかし、その完成された姿に至る前、前足がまだ「柱」ではなく、物を掴むための「手」だった時代があります。
その痕跡を、中国・雲南省の地層に見ることができます。
雲南省武定県で発見された新種の恐竜は、地名と中国語で龍を意味する語を組み合わせ、ウーディンルーン・ウーイ(Wudingloong wui)と名付けられました。
東アジアで知られる中では最も初期に位置づけられる竜脚形類の一つであり、彼らが生きていたのは、三畳紀末の大量絶滅を越え、生命のかたちが再び揺れ動き始めた直後の世界でした。
ウーディンルーンの姿は、いわゆる「首の長い巨大恐竜」とは異なります。
体は小柄から中型で、二本の後肢で立ち、歩いていた可能性が高いと考えられています。
その理由は足ではなく、むしろ前足に刻まれています。
発掘された骨格を詳しく見ると、手の第一指、つまり親指にあたる爪の芯となる骨が、他の指に比べて異様なほど大きく、頑丈に発達していることがわかります。
その大きさは、第三指の爪のおよそ三倍に達していました。
この爪は、歩行のための補助具ではありません。
後の巨大な竜脚類たちは、体重を支えるために前足の柔軟性を捨て、爪を退縮させ、手のひら全体を地面に固定する道を選びました。
しかし、ウーディンルーンの前肢はまだ華奢で、腕の骨頭は低く平らです。
重さを受け止める構造ではなく、動かすための構造を保っていました。
植物を掴んで引き寄せるため、あるいは身を守るために、彼らはその大きな爪を使っていたのでしょう。
この爪が地面に触れれば、二足歩行は不安定になります。
つまりウーディンルーンは、すでに「巨人」への道を歩み始めながらも、「手」を捨てきれずにいた存在でした。
この化石は、進化が直線ではないことも語っています。
巨大な竜脚類では、骨の内部に空洞が形成され、気嚢と呼ばれる呼吸システムが体内に広がることで、体を軽く保つ工夫がなされています。
しかし、ウーディンルーンの骨には、その痕跡が見られません。
進化とは、すべての特徴が同時に揃う出来事ではありません。
いくつかは先に現れ、いくつかは遅れ、時に失われます。
完成図に向かう途中で、形は何度も組み替えられてきました。
その過程は、整った設計図というより、試行錯誤の重なりに近いものです。
東アジア最古級の記録として残されたウーディンルーンの骨格は、二本の足で大地に立ち、鋭い爪を備えた手を空中に遊ばせていた時代の一瞬を封じ込めています。
もし進化の選択が少し違っていれば、私たちの手もまた、物を掴むことをやめ、体重を支えるだけの構造になっていたかもしれません。
そう考えると、手のひらに残された自由は、必然の結果ではなく、数えきれない分岐の末にたまたま残った痕跡のように見えてきます。
参考文献:
Wang, YM., Zhang, QN., Wang, YC. et al. A new Early Jurassic dinosaur represents the earliest-diverging and oldest sauropodomorph of East Asia. Sci Rep 15, 26749 (2025). https://doi.org/10.1038/s41598-025-12185-2

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