足跡は語る―動物たちのグレートジャーニー

足跡は語る―動物たちのグレートジャーニー

 

2001年に公開されたフランスのドキュメンタリー映画『WATARIDORI』(Le Peuple Migrateur)は、渡り鳥の視点そのものになって、彼らの長大な旅を追体験させてくれます。

スタッフは鳥たちを雛の時から育て、超軽量飛行機(ウルトラライトプレーン)を親だと刷り込ませることで、鳥の群れと共に空を飛ぶという画期的な撮影を成功させました。

北極から南極まで、数千キロにも及ぶ渡りのルートを、鳥の目線で眺められるのです。

彼らがなぜそこまでして移動するのか、その生命のプログラムの壮大さを実感させます。

 

しかし、こうした長旅を続けるのは鳥たちだけではありません。

地上にも、途方もない長距離を移動する動物たちがいます。

今回紹介するのは、そんな陸の冒険者たちの物語です。

 

世界で最も長い陸上の季節的な移動(往復距離)を記録したのは、実はカリブーというシカの仲間。

カナダ北部では、毎年1,350 kmもの往復移動を繰り返すカリブーの群れがあります。

一方、北極圏の苛酷な環境を旅するカリブーを追いかけるオオカミの中にも、1,016 kmという驚くべき距離を移動するものがいます。

 

しかし、一年間を通じた総移動距離で見ると話は違います。

モンゴル南西部のハイイロオオカミは年間7,247 kmもの距離を移動し、群れを率いるメスのオオカミでも5,429 kmを走破します。

これは餌となる動物を追い続けるためで、獲物が動けば動くほどオオカミたちの移動距離も伸びるのです。

 

移動の理由はさまざまですが、生息環境の生産性が低い地域ほど動物たちは頻繁に動く傾向があります。

栄養が少ない地域では餌となる植物や動物が広く散らばっているため、それを追いかけて旅を続ける必要があるのです。

例えばモンゴルの野生ロバ(フラン)は、乾燥地帯を年間6,145 kmも移動しています。

 

一方、大型の動物ほど移動距離が短くなる傾向があります。

例えば、小型のトナカイは、大型のヘラジカよりも遥かに長い距離を移動します。

体が大きければ大量の栄養を蓄えられるため、あまり動き回る必要がないというわけです。

 

これら動物たちの壮大な旅路は、時に人間が作る道路やフェンスなどのインフラによって妨げられることがあります。

近年、世界的に大型哺乳類の長距離移動は減少傾向にあり、彼らが自由に動けるルートを確保するための取り組みが重要視されています。

例えば、北米のイエローストーン国立公園では、移動経路を妨げないよう特別な生態系保護区を設けています。

 

陸を旅する動物たちの長い道のりは、生きるための必然的な行動であると同時に、地球規模で見た自然環境の健康を示す指標ともなっています。

彼らが刻む足跡を丁寧に追いかけることで、私たち人間もまた、自分たちが辿るべき未来への道を見つけられるのかもしれません。

 

参考文献:

Joly, K., Gurarie, E., Sorum, M.S. et al. Longest terrestrial migrations and movements around the world. Sci Rep 9, 15333 (2019). https://doi.org/10.1038/s41598-019-51884-5

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。