健康診断の時、お腹周りにメジャーが巻かれる瞬間は、少し緊張するものです。
思わず息を吸い込んでお腹を引っ込めたくなりますが、それは反則なので我慢します。
数値を聞いてホッとしたり、来年こそはと心に誓ったり。
その「腹囲」の持つ意味について、従来のBMI(体重を身長の2乗で割った値)との比較で、より深く掘り下げた研究があります。
肥満が心臓や血管の病気のリスクを高めることは知られていますが、BMIは手軽な一方で、筋肉と脂肪を区別できない、あるいは脂肪が体のどこにあるかまでは分からない、という限界がありました。
特に、内臓の周りにつく脂肪(内臓脂肪)が、動脈硬化を進めやすいとされています。
そこでブラジルの研究チームは、BMIや単なる腹囲(WC)よりも正確にリスクを測れる指標を探す研究を行いました。
対象となったのは、「ELSA-Brasil」という大規模研究に参加した、心血管疾患の既往がなく、研究開始時点(ベースライン)で冠動脈の石灰化(CACスコア=0)がなかった2,721人です。
冠動脈の石灰化は、動脈硬化の「証拠」のようなものです。
研究チームは、この2,721人(平均年齢48.1歳、女性62.6%)を平均5.24年追跡し、BMI、腹囲(WC)、そして「WHtR(腹囲÷身長)」という3つの指標が、将来の動脈硬化の「発生」をどれだけ予測できるか比較しました。
追跡期間中に、全体の15.5%にあたる423人で、新たに冠動脈の石灰化が確認されました。
年齢、性別、喫煙、糖尿病、高血圧、脂質の状態など、多くの要因の影響を取り除いて分析したところ(多変量解析)、興味深い結果が出ました。
BMIや腹囲(WC)は、動脈硬化の発生との明確な関連が見られなくなったのに対し、WHtRだけが、唯一、独立した予測因子として統計的に意味のある関連性を保っていたのです。
この発見の核心は、WHtRの予測力が、特にBMIが30未満、つまり従来の基準では「肥満」とされていなかった人々において強く見られた点にあります。
具体的には、要因調整後の分析で、WHtRが0.5以上だと、0.5未満の人に比べて動脈硬化の発生リスクが約1.4倍になりました。
さらに、BMIが25から29.9の「過体重」とされるグループに絞ると、WHtRが0.55以上の場合、0.55未満の人に比べたリスクが約1.77倍と、より強い関連が見られました。
BMIを家の「総重量」に例えるなら、WHtRは「建物の高さ(身長)に対する横幅(腹囲)」という「建物のバランス」を見る指標と言えます。
たとえ総重量(BMI)が標準でも、このバランスが悪い(WHtRが0.5を超える)と、家の中心部(内臓)に余計な荷物(内臓脂肪)が詰まっていて、建物の構造(血管)に負担がかかっている状態を、より敏感に捉えられるのかもしれません。
従来の基準では見逃されがちだった「隠れたリスク」を、WHtRは示してくれたのです。
もちろん、この研究は、動脈硬化が「ゼロから発生する」過程を見たものであり、既にあった動脈硬化の「進行」を見たものではありません。
また、追跡期間中の体型変化は考慮されていません。
健康診断で思わず息を吸い込みたくなる、あのメジャーの瞬間。
その時示される「腹囲」の数値を、ただ「標準内か」と確認するだけでなく、自分の「身長」で割ってみる。
そして、その値が「0.5」や「0.55」といった節目に近づいていないかを確認する。
そのひと手間が、BMIの数値だけを見るよりも率直に、私たち自身の「体のバランス」を教えてくれる「物差し」になるのかもしれません。
参考文献:
Mendes TB, Generoso G, Fabiano RC, et al. Waist-to-height ratio and coronary artery calcium incidence: the Brazilian Longitudinal Study of Adult Health (ELSA-Brasil). Lancet Reg Health Am. 2025;101281. doi:10.1016/j.lana.2025.101281

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
