マスクの下の笑顔:子どもたちに影響はあったのか

マスクの下の笑顔:子どもたちに影響はあったのか

 

新型コロナウイルスの影響で私たちの日常が大きく変わってしまったことは、みんなが経験したことですね。

マスクで顔が半分隠れるのが当たり前になって、人と会う機会も減ってしまいました。

大人でさえ戸惑う状況でしたから、小さな子どもたちはもっと大きな影響を受けていたかもしれません。

彼らの目に映った「マスク社会」は、一体どんな世界だったのでしょう。

 

オランダのユトレヒト大学の研究チームは、この疑問に向き合いました。

パンデミック前後で、赤ちゃん(生後5か月と10か月)や3歳の子どもたちの「顔を見る力」に変化があるかどうかを、脳波(EEG)を使って調べたのです。

具体的には「事象関連電位(ERP)」という脳の反応パターンを使い、900人以上の子どもたちが顔や表情、そして家などの物体を見たときの脳の活動を測定しました。

 

結果は少し意外なものでした。

 

まず、3歳児の顔を処理する速度がパンデミック中に速くなっていたのです。

具体的には、パンデミック前の子どもたちが顔を認識するまでの時間が約247ミリ秒だったのに対し、パンデミック中の子どもたちは約230ミリ秒と短縮されていました。

なぜ情報が少ないはずの環境で顔認識が速くなったのかは、まだはっきりとは分かりません。

ただ、この変化は生後5か月や10か月の赤ちゃんでは見られませんでした。

 

一方で、「顔」と「顔でない物」(家など)を区別する基本的な能力には、パンデミック前後で大きな違いはありませんでした。

つまり、「顔」を特別なものとして認識する能力は、生まれつき備わっているようです。

 

しかし、表情の認識には明確な違いがありました。

パンデミック前の子どもたちは、嬉しい顔や怖い顔などの違いに敏感に反応していましたが、パンデミック中に育った子どもたちは、特に「嬉しい顔」に対する反応が弱くなっていたのです。

研究チームは、マスク生活や人との接触が減ったことで、多様な「笑顔」を見る機会が減り、その結果として嬉しい表情への感度が低下したのではないかと考えています。

 

もちろん、この結果がすぐに子どもたちの将来に深刻な影響を与えるとは限りません。

子どもの脳はとても柔軟で、環境に順応する力も備えています。

ですが、この研究から分かるのは、人の豊かな表情、特に笑顔をたくさん見ることが、子どもの社会性や情緒の成長にとって非常に大切だということです。

 

マスクを外す機会が増えた今こそ、私たち大人が子どもたちに積極的に笑顔を向けて、表情豊かなコミュニケーションを心がけたいものです。

 

参考文献:

van den Boomen C, Praat AC, Junge CMM, Kemner C. The effects of Covid-19 related policies on neurocognitive face processing in the first four years of life. Dev Cogn Neurosci. 2025;72:101506. doi:10.1016/j.dcn.2025.101506