鎮痛薬で大胆になる?アセトアミノフェンの意外な影響

鎮痛薬で大胆になる?アセトアミノフェンの意外な影響

 

頭痛や発熱の時、多くの人が服用する鎮痛薬「アセトアミノフェン(製品名:タイレノール)」。

アメリカでは成人の約23%が毎週使っているというほど身近な薬です。

この馴染み深い薬に、実は私たちの意思決定、特に「リスクを取る行動」に影響を及ぼす可能性がある、という興味深い研究が報告されました。

 

ことの発端は、アセトアミノフェンが体の痛みだけでなく、心の痛み、例えば仲間外れにされた悲しさも和らげるという発見でした。

さらには、ポジティブな感情への反応も少し鈍らせることが分かってきました。

つまり、感情の振れ幅を小さくしてしまう薬なのです。

 

リスクを判断するとき、私たちは感情を大きな手がかりにしています。

例えばジェットコースターに乗るときの怖さとスリルのように、ネガティブな感情とポジティブな感情が絡み合いながら決断に至ります。

研究者たちは、アセトアミノフェンがこうした感情の動きを抑えることで、リスクに対する感じ方や行動が変化するのではないかと考えました。

 

オハイオ州立大学の研究チームはこの仮説を検証するため、健康な若年成人545人を対象に二重盲検プラセボ対照実験を行いました。

参加者はランダムに二つのグループに分けられ、一方にはアセトアミノフェン(1000 mg)、もう一方には偽薬(プラセボ)を服用してもらいました。

その後、「風船アナログ・リスク課題(BART)」というゲームに挑戦しました。

これは、風船を膨らませるほど架空のお金が貯まりますが、膨らませすぎて風船が破裂するとお金が失われる、という仕組みのものです。

 

その結果、アセトアミノフェンを服用したグループは、プラセボグループよりもリスクを取って風船をより多く膨らませました。

具体的な数値では、プラセボグループの平均が約29.4回だったのに対し、アセトアミノフェン服用グループは約32.2回と統計的にも有意に高い値でした(p=0.024)。

さらに、リスクを直感的に評価するアンケートでも、アセトアミノフェン服用者は「リスクを低く見積もる」傾向が見られました。

 

この研究は、アセトアミノフェンがリスクに伴う不安や恐れといった感情を抑え、「大丈夫だろう」という気持ちを後押しし、結果としてより大胆な行動を促す可能性を示しています。

 

もちろん、この結果だけで「誰でもアセトアミノフェンを飲めば大胆になる」と断定するのは早計です。

リスクを取る行動に影響しなかった実験条件もあり、今後さらに検証が必要です。

しかし、普段何気なく服用する薬が、車の運転や医療上の重大な決定など、日常生活における重要な判断に影響を及ぼす可能性を示したこの研究は、私たちが薬を使うときの意識を少し変えるきっかけになるかもしれません。

次にアセトアミノフェンを飲むときは、自分の心の動きにも少し目を向けてみるのはいかがでしょうか。

 

参考文献:

Keaveney A, Peters E, Way B. Effects of acetaminophen on risk taking. Soc Cogn Affect Neurosci. 2020 Sep 24;15(7):725-732. doi: 10.1093/scan/nsaa108. PMID: 32888031; PMCID: PMC7511878.