音声認識技術は医療の現場を変えるか?

音声認識技術は医療の現場を変えるか?

 

日常の診療において、医師たちが直面する地味だけれど重要な作業の一つに、カルテの記録があります。

最近では、文字起こしAIアプリ「Whisper」などの登場など、音声認識技術の進化が目立っていますが、日本の医療現場では、依然としてキーボード入力によるカルテ記録が主流です。

その普及はまだ途上段階と言えます。

特に忙しい診療の現場で、この新しいテクノロジーがどれほど役に立ち、そして現実的なのでしょうか。

 

米国のマーシュフィールド・クリニック・ヘルスシステムで行われた調査によれば、音声認識技術(Dragon Medical One)を利用した結果、文書作成効率が向上することが明らかになりました。

音声認識技術には認識精度や編集作業の手間などの問題も指摘されており、本当に効率化に寄与するのか疑問視する声もあります。

今回の調査は、その懸念を検証する目的でも行われました。

2018年から2020年まで、米国ウィスコンシン州とミシガン州の田舎の地域を対象に行われたこの調査では、1,124人の医師や医療従事者を対象に、音声認識ツールの使用頻度と文書作成の効率が分析されました。

ただし、この調査では医師たちが音声認識技術を診療中に使っているのか、診療後に使っているのか、それともその両方なのかについては明確にされていません。

 

その結果、音声認識技術を利用する割合が1%増えるごとに、カルテの記録効率(1時間当たりに書かれる行数)が0.25%上昇することが示されました。

また、具体的には、1時間当たり平均428行の文書を記録していることがわかりました。

さらに興味深いことに、外科系や救急・リハビリテーションといった分野の医師は、内科や家庭医学などの一般診療科の医師よりも、より多くの文書を効率よく記録していました。

また、若い医師や男性の医師ほど記録の効率が高い傾向がありました。

 

しかし、技術にも完璧はありません。

研究者たちは、この調査が一つの地方医療機関で行われたため、都市部など他の環境で同じ結果が得られるかどうかは、さらなる検証が必要だとしています。

また、単純に記録した行数だけでは、実際の時間節約や業務改善の程度を完全に測ることはできません。

今後は記録する文書の種類や作業負荷、音声認識技術への慣れといった要素も検討する必要があるでしょう。

 

それでも、日常的に診療に追われる医師にとって、このような技術が少しでも業務の負担を減らし、患者さんと向き合う時間を増やしてくれるならば、導入する価値は十分にあるといえます。

 

私のような滑舌の悪い人間の音声を、どれだけ認識してくれるのか、技術の進歩に期待したいと思います。

 

参考文献:

Shour AR, Anguzu R, Onitilo AA. Speech Recognition Technology and Documentation Efficiency. JAMA Netw Open. 2025;8(3):e251526. doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.1526