私たちは毎日、当たり前のように息をしています。
でも、その息を鼻で吸っているのか、口で吸っているのかを、ふだん意識することはほとんどありません。
それでも、鼻がつまった夜に眠りにくくなったり、かぜをひいたあとに頭がぼんやりしたりした経験は、多くの人にあると思います。
呼吸は気づかないうちに、体の調子や気分に影響しています。
この研究が調べたのは、子どものように成長している時期に、鼻で息ができない状態が続くと、脳にどんな影響が出るのかということです。
これまで、鼻呼吸は睡眠や集中力、気分と関係があると考えられてきました。
しかし、脳そのものが作られていく途中で、何が起きているのかは、よく分かっていませんでした。
研究者たちは、呼吸のしかたが、脳の成長の途中で小さな乱れを起こし、それがあとから影響として出てくるのではないかと考えました。
そこで、成長しているマウスに、鼻で息がしにくい状態を経験させました。
すると、大人になってからの行動に違いが見られました。まったく動けなくなるわけではありませんが、回転する棒の上に立ち続ける場面や、水の中で動き続ける場面で、途中で動きが止まりやすくなったのです。
うまくできないというより、「続かない」様子が目立ちました。
この行動は、やる気がないから起きたようには見えません。
動こうとはしているのに、長く続かないのです。
人でも、集中していたのに、急に気が切れてしまい、元に戻れなくなることがあります。
マウスに見られた行動は、そうした感覚に近いものでした。
研究者たちは、その原因を「小脳」という脳の部分に注目しました。
小脳は、体をなめらかに動かすために大切な場所ですが、行動のリズムや気分の切り替えにも関わっています。
成長の途中では、脳の中のつながりが整理され、いらないつながりは減らされていきます。そうすることで、必要なときに必要な動きができるようになります。
ところが、成長の早い時期に鼻呼吸がうまくできなかったマウスでは、この整理がうまく進みませんでした。
小脳の神経は、大人になっても同じ動きを続けやすい状態のままでした。
本来なら切り替わるはずのリズムが、そのまま残ってしまっていたのです。
全員が同じ速さで演奏し続ける音楽を想像してみてください。
最初はそろって聞こえますが、曲の変化についていけなくなります。
少し間を取ったり、速さを変えたりできないと、演奏はうまく続きません。
マウスの行動の変化は、脳の中で起きていたこの状態と重なっています。
ここで大切なのは、この問題を「気合い」や「性格」のせいにしないことです。
動きが続かないのは、なまけているからではありません。
研究が教えてくれるのは、もっと前の段階、脳が育っている時期の話です。
息のしかたという、とても基本的なことが、脳の働き方に関わっていた可能性が見えてきます。
もちろん、この研究はマウスで行われたものです。
そのまま人に当てはめることはできません。
でも、呼吸がただの空気の出入りではなく、脳の働きと結びついているという考え方は、私たちの経験ともつながります。
小さいころの鼻づまり、眠りにくかった時期、集中が続かなかった記憶。
それらを思い出すと、「自分のせい」だと思っていたことに、別の見方が生まれるかもしれません。
続かなかったのは、本当に気持ちの問題だったのでしょうか。
止まりやすかったのは、努力が足りなかったからでしょうか。
この研究は、はっきりした答えを出すわけではありません。
ただ、考える場所を少し変えてくれます。
呼吸という目立たないところで、脳のリズムがどのように作られていたのか。
そのことを知ったあとでは、これまでとは少し違う目で、自分の過去を見られるようになるかもしれません。
参考文献:
Tanigawa, M., Liu, M., Sekiguchi, M. et al. Nasal obstruction during development leads to defective synapse elimination, hypersynchrony, and impaired cerebellar function. Commun Biol 7, 1381 (2024). https://doi.org/10.1038/s42003-024-07095-4

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
