子供たちが「お化け屋敷に行きたい」とせがんだり、ヒーローごっこでわざと悪役に追い詰められるフリをしてはキャーキャーと逃げ回ったりする姿は、昔からよく見られる光景です。
怖いのに笑いがこみあげてくる、その複雑な感情の混ざり合い―それを研究者たちは“レクリエーショナル・フィア”(recreational fear)と呼んでいます。
デンマークのアーフス大学の研究チームによる分析では、1〜17歳の子ども1600人の保護者にアンケートを行い、どのような「怖いけれど楽しい」遊びをしているのかを調べました。
その結果、93%の子どもが少なくとも1種類のレクリエーショナル・フィア活動を楽しんでいることがわかりました。
活動の内容は幅広く、親に追いかけられる鬼ごっこから、ホラー映画、遊園地の絶叫マシンまで、19種類に分類されました。
人気の高い活動として挙げられたのは、次のようなものでした。
* スピードや高所を伴う遊び(ブランコ、滑り台、木登りなど)
* 映画やテレビの怖いシーンを観ること
* 怖い物語を読む・聞くこと
* ルールのある怖いゲーム(かくれんぼなど)
一方で、痛みを伴う遊びや社会のルールを破るような活動を好む子どもは少数でした。
年齢による傾向も見られ、1〜4歳では「追いかけっこ」や「ごっこ遊び」といった身体的・想像的な恐怖が中心で、5歳を過ぎるとテレビやゲームなどのメディア的な恐怖へと移行します。
思春期になると、親とではなく友達同士で「怖いこと」を共有する割合が増えるようです。
研究チームは、こうした遊びが単なるスリルではなく、感情のコントロールを学ぶ場である可能性を指摘しています。
安全な環境で恐怖を感じることは、不安への耐性や情動調整力を育てる練習になりうる。
つまり、子どもたちは「恐怖という筋肉」を遊びの中で鍛えているのです。
もちろん、この研究は保護者の報告に基づくため、子ども本人の実感までは直接測定されていません。
また、文化による違いも考えられます。
たとえば日本では、「おばけ屋敷」や「怪談」のように、怖さと笑いが混ざり合う独特の文化が息づいています。
そこにも、恐怖と遊びの絶妙なバランスが潜んでいるのかもしれません。
日々の診療の中で、子育ての話題に触れることがあります。
「うちの子、怖がりなくせにホラー好きなんです」と笑う親御さんの言葉に、私は深く共感します。
実は私の子どもたちもそうだったからです。
恐怖という感情は、子どもの成長の副産物ではなく、その成長を支える“遊びの一部”なのかもしれません。
「おばけ屋敷に行きたい」と目を輝かせる子どもの姿には、未知への好奇心と、怖さを乗り越える小さな勇気が宿っています。
その力は、年齢を重ねた私たちの中にも、まだ密かに息づいているのではないでしょうか。
参考文献:
Taranu M, Clasen M, Rosas FE, Dodd H, Andersen MM. Recreational Fear Across Childhood. A Cross-Sectional Study of Scary Activities that Children Enjoy. Child Psychiatry Hum Dev. Published online June 16, 2025. doi:10.1007/s10578-025-01850-2

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
