透析治療を始められた患者さん、特にご高齢の方が、治療開始の前後で体力が落ちてしまう姿を目にすることがあります。
入院生活の影響で筋力が低下し、歩行や立ち上がりが難しくなることも少なくありません。
家に帰ることを目標にしていても、思うように体が動かない―そんな現実に直面する患者さんを支える方法はないだろうかと、私たち透析スタッフはいつも感じているものです。
カナダ・オンタリオ州で行われた研究は、まさにその問いに向き合ったものです。
研究チームは、66歳以上で新たに透析を始めた約2万人の中から、透析開始後6か月以内にリハビリ専門施設へ入院した1,567人を抽出し、同じ条件の患者約3,800人と比較しました。
分析には医療行政データベースを活用し、1年間の生存率、入院日数、介護施設への入所率などを追跡しました。
リハビリを受けた人たちは、平均76点だった「機能的自立度(FIM)」が退院時には98点にまで上がっていました。
移動やトイレ動作、着替えなど、日常生活の基本動作が回復していたのです。
一方で、1年後の死亡率はリハビリ群27%、非リハビリ群25%と大きな差はなく、入院日数はむしろやや長くなっていました。
それでも、多くの患者(93%)が自宅へ戻ることができた点は注目に値します。
この結果が示すのは、リハビリの役割が「寿命を延ばす」ことよりも、「再び自分の足で生活を取り戻す」ことにあるという事実です。
透析という新しい生活リズムに体と心を慣らす時間を、リハビリは提供しているのかもしれません。
それは、歯車がかみ合わなくなった体をもう一度動かすための“助走期間”のようなものです。
とはいえ、研究は行政データを用いた観察研究であり、介入内容は一律ではありません。
リハビリの質やタイミング、患者の意欲などの違いを完全に調整することはできませんでした。
それでも私は、この研究に温かい希望を感じます。
透析は「命をつなぐ治療」であると同時に、「生活を再構築する過程」でもあります。
歩けるようになること、家に帰れること―それが患者さんにとっての回復の実感であり、医療の目的でもあると、そう感じています。
参考文献:
Van Loon I, Kajawo S, McArthur E, et al. Effectiveness of Inpatient Rehabilitation for Older Adults Soon After Dialysis Initiation to Improve Health Outcomes. Am J Kidney Dis. Published online June 30, 2025. doi:10.1053/j.ajkd.2025.06.003

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
