新型コロナウイルスの影響で、人と会う機会が激減した時期がありました。
自宅で孤独な時間を過ごしていると、ふと甘いものに手が伸びたり、ネットショッピングのカートがいっぱいになっていたり。
あの妙な“満たされなさ”は何だったのでしょうか。
そんな感覚と重なるような研究が、ケンブリッジ大学から報告されました。
この研究は、新型コロナウイルスのパンデミック期(2021年4月〜2022年2月)という、社会的距離が求められる特殊な環境下で実施されました。
孤立が人の心にどう影響するかは、これまで主に動物実験で探られてきましたが、思春期の若者では明らかではありませんでした。
研究チームは、16〜19歳の健康な男女40人を対象に、約3.5〜4時間にわたる「短期的な社会的隔離」を実験的に行いました。
一方では完全に孤立させ、もう一方ではスマートフォンなどを使って他者とSNSで交流できる条件を設け、その違いが心と行動にどんな影響を及ぼすかを調べたのです。
分析の結果、いくつかの興味深い傾向が見えてきました。
* 完全な孤立を経験した若者は、報酬(ご褒美)を得るための課題に対する意思決定が速くなった。
* 特に報酬が「人の笑顔の写真」といった社会的なものである場合、反応がより強くなった。
* 学習課題では、完全な孤立を経験した後の方が間違いが少なく、学習の更新が速かった。
* そして、孤独感が強かった参加者ほど、こうした変化が顕著だった。
この結果から、私たちの心は乾いたスポンジのように感じられます。
水分を失ったスポンジが一滴の水を急いで吸い込むように、孤立状態では脳が「報酬」という刺激を強く求めているのです。
孤独が長く続くと、それは社会的なつながりを取り戻すための強い衝動として現れるのかもしれません。
ただし、この研究には注意点もあります。
すべての参加者が最初に基準となるテスト(ベースライン)を受けたため、実験の順番が結果に影響した可能性があります。
また、パンデミック期という特殊な社会状況下で実施されたことから、当時の不安や制限が参加者の心理に影響した可能性も否定できません。
あの頃、私が感じていた奇妙な渇望感も、実は心が社会的な潤いを求めていたサインだったのかもしれません。
この研究は、懲罰としての隔離などが、意図せず子供の報酬への欲求を強めてしまう危険性も教えてくれます。
孤独はただ辛いだけのものではなく、私たちが再び誰かと手を取り合うために、脳が発している切実なシグナルだと言えるかも知れません。
参考文献:
Tomova L, Towner E, Thomas K, Zhang L, Palminteri S, Blakemore SJ. Acute isolation is associated with increased reward seeking and reward learning in human adolescents. Commun Psychol. 2025;3(1):135. Published 2025 Sep 5. doi:10.1038/s44271-025-00306-6

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
