ランニングをしていると、ふと自分の足の運びが妙にリズミカルに感じることがあります。
いつもより軽く、なんだか調子がいい。
そんな日は、走り終えたあとも疲れが少ないのです。
あとでスマートウォッチを確認すると、ピッチ(1分間あたりの歩数)が普段よりわずかに多い。
たった5〜10%の違いなのに、身体の動き全体が滑らかに整うのを実感します。
この感覚を科学的に検証したのが、2025年に発表されたイネス・フィゲイレードらの系統的レビューです。
彼女たちは2009年から2025年に発表された18本の研究を精査し、ランニングピッチの変化が身体に与える影響をまとめました。
もともと、ランニング障害の多くは「走りすぎ」や「筋力不足」と説明されがちでしたが、この研究では“走り方のリズム”という視点から、障害予防の新しい道が示されています。
分析対象となった研究では、ピッチを通常より5〜10%増やすだけで明確な変化が見られました。
たとえば、普段150spm(1分間に150歩)のランナーなら158〜165spmに、180spmのランナーなら190spm前後を目指すイメージです。
膝や脛骨(すねの骨)にかかる衝撃力は最大で約20%低下し、ストライド(歩幅)が短くなり、足が体の真下に着地するようになることで「オーバーストライド」(足を前に出しすぎるフォーム)が減少します。
さらに、膝の内側への傾き(動的膝外反角)は平均2度改善し、股関節の動きもより安定しました。
エネルギー消費量や心拍数は変わらず、むしろランニング効率がわずかに向上したという報告もあります。
驚くべきことに(あえて言えば“静かにすごい”のですが)、この効果は高価な機器を必要としません。
テンポの合った音楽やメトロノームを使うだけでピッチを整えられるのです。
たとえば、180BPMの音楽で走る人は、190BPMのリズムを目安にすると良いでしょう。(いくつかの音楽ストリーミングサービスにはランニング用のプレイリストもたくさんありますね)
しかも、初心者ランナーを対象にした1年間の追跡研究では、ピッチを意識的に増やすだけで障害の発生率が62%も減ったといいます。
もちろん、課題も残ります。
多くの研究は短期間の実験であり、長期的な効果や個人差(走法、筋力、既往歴など)を十分に評価していません。
さらに、スピードを一定に保ってピッチだけを変える設計でない研究もあり、結果の比較には注意が必要です。
それでも、私が走るときに感じる「軽さ」には、確かな裏づけがあったということです。
ピッチの調整は、まるで音楽のテンポを変えて曲の印象を変えるようなものだと思います。(リズム音痴の私がいうのも、ですが)
少し速めるだけで、身体が奏でるリズムが変わり、衝撃がやわらぎ、動きが調和していく。
そんな小さな変化が、怪我を防ぐのなら、しばらく試してみようと思うのです。
参考文献:
Figueiredo I, Reis E Silva M, Sousa JE. The Influence of Running Cadence on Biomechanics and Injury Prevention: A Systematic Review. Cureus. 2025;17(8):e90322. Published 2025 Aug 17. doi:10.7759/cureus.90322

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
