サバイバル社会でリーダーはどう見られる?―「競争的世界観」が判断を変える

サバイバル社会でリーダーはどう見られる?―「競争的世界観」が判断を変える

 

映画『セッション』に登場する鬼教師、フレッチャー。

彼はイスを投げつけ、生徒を罵倒し、精神的に極限まで追い詰めます。

その指導は、ある者にとっては「偉大な才能を育むための情熱」であり、またある者にとっては「許されざる虐待」です。

同じ人物の、同じ行動を見ているのに、なぜ評価はこうも真っ二つに割れるのでしょうか。

この問いに、心理学がひとつの興味深い答えを提示しています。

 

アメリカ・コロンビア大学の研究者Christine Q. NguyenとDaniel R. Amesは、「人は自分の世界観というレンズを通して他者を評価している」という仮説を立てました。

彼らは7つの研究(総参加者2065人)を行い、「競争的世界観(competitive worldview、CWV)」という概念を軸に、リーダーの攻撃的(アンタゴニスティック)な行動がどのように解釈されるかを調べました。

CWVとは、「社会は弱肉強食のジャングルだ」と感じるか、それとも「協力と信頼に満ちた場所だ」とみなすかという根本的な世界観の違いを指します。

言い換えれば、他人の成功を脅威と感じやすいか、あるいは喜びとして共有できるかという“人間観”の違いです。

 

分析によると、競争的世界観が高い人ほど、他者を威圧したり強く主張するリーダーを「有能で効果的」と評価する傾向が見られました。

一方で、協調的な世界観をもつ人は、同じ行動を「無神経でリーダー失格」とみなす傾向が強かったのです。

さらに、実際の職場調査でも、競争的世界観の高い部下は、攻撃的な上司のもとでもモチベーションや仕事満足度を比較的高く維持していました。

 

この現象は、まるで「色付きのメガネ」で世界を見ているようです。

社会を戦場とみなす人にとって、フレッチャーの厳しさは“強さ”として映り、社会を共同体とみなす人にとっては“冷たさ”に映る。

同じ行動でも、評価を決めているのは行為者ではなく、それを見る側のレンズなのです。

 

もっとも、この研究の舞台は主にアメリカの職場環境に限られており、評価も実際の行動観察ではなく印象に基づいていました。

とはいえ、「なぜある人には厳しさが美徳に、別の人には暴力に見えるのか」を説明する上で、ひとつの新しい視点を与えてくれます。

 

フレッチャーのようなリーダーを「情熱的な指導者」とみるか「暴君」とみるか。

それは、彼の言葉の激しさよりも、私たち自身の世界観にかかっているのかもしれません。大切なのは、自分がどんなレンズを通して世界を見ているかを知り、必要に応じてそのレンズをかけ替える柔軟さをもつこと。

そうして初めて、リーダーの“厳しさ”の真の意味が見えてくるのだと思います。

 

参考文献:

Nguyen CQ, Ames DR. Savvy or savage? How worldviews shape appraisals of antagonistic leaders. J Pers Soc Psychol. Published online July 14, 2025. doi:10.1037/pspa0000456

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。