尿検査が示す未来のサイン―アルブミン尿と認知症の意外なつながり

尿検査が示す未来のサイン―アルブミン尿と認知症の意外なつながり

 

日々の診療で「タンパク尿が出ていますね」と患者さんにお伝えする場面は少なくありません。

タンパク尿が心臓病や脳卒中のリスクを高めることはよく知られていて、そういう時は食事や血圧の管理についてお話することになります。

しかし、その小さな尿の変化が、私たちの「記憶」や「思考」といった、より根源的な部分にも関わっているとしたらどうでしょうか。

 

これまで腎機能と認知症の研究は、血液検査でわかるeGFR(推算糸球体濾過量、腎臓が老廃物をろ過する能力を示す指標)に注目が集まりがちでした。

しかし、スウェーデンで行われたSCREAM研究は、eGFRとは独立して「アルブミン尿(尿中に本来ほとんど出ないはずのアルブミンというタンパク質が漏れ出す状態)」そのものが認知症のリスクとどう関わるかを、約13万人の高齢者のデータを用いて明らかにしました。

これは、腎機能の低下という大きな枠組みだけでなく、血管の微細なダメージのサインであるアルブミン尿に焦点を当てた点で、新しい視点を提供しています。

 

平均3.9年間の追跡調査の結果、尿中のアルブミン・クレアチニン比(ACR)が高いほど、認知症を発症するリスクが高まることが示されました。

* ACRが30-299 mg/g(微量アルブミン尿)の人々は、正常(30 mg/g未満)の人々と比べて、全認知症のリスクが25%上昇しました。

* ACRが300 mg/g以上(顕性アルブミン尿)の人々では、そのリスクは37%も上昇していました。

 

興味深いことに、このリスク上昇は特に血管性認知症や混合型認知症で顕著であり、アルツハイマー病との明確な関連は見られませんでした。

 

アルブミン尿は、腎臓というフィルターからタンパク質が漏れ出している状態です。

これを「体の血管網に生じた微細なほころび」と捉えることができます。

腎臓の血管に起きた変化は、脳の血管にも同じように起きているのかもしれません。

アルツハイマー病よりも血管性認知症との関連が強かったという結果は、アルブミン尿が脳の神経細胞の変性そのものより、脳の血流を支える血管の健全性を反映している可能性を示しています。

 

ただし、この研究はスウェーデンの人々を対象とした観察研究であり、生活習慣や遺伝的背景などの要因を十分に考慮していない点には注意が必要です。

したがって、アルブミン尿が認知症の「直接の原因」であると断定することはできません。

 

それでも、日々の尿検査の結果を見ながら、私は患者さんの未来に思いを馳せます。

タンパク尿を改善するための生活習慣の見直しが、心臓や腎臓だけでなく、その人の大切な記憶や思考を守るための一歩になるのかもしれない。

身近な尿検査が、私たちの脳の健康という未来を映し出す鏡になる可能性を、この研究は教えてくれています。

 

参考文献:

Luo L, Gansevoort RT, Kieneker LM, et al. Albuminuria is associated with increased risk of dementia, independent of eGFR: The SCREAM project. J Intern Med. Published online September 23, 2025. doi:10.1111/joim.70022

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。