日々の診療で、数多くの血液検査データに目を通します。
その中にある「RDW(Red cell Distribution Width:赤血球分布幅)」という項目は、赤血球の大きさのばらつきを示す指標で、主に貧血の種類を診断するために使われます。
これまでは、貧血がなければ深く気に留めることのない、検査表の片すみにある数字に過ぎませんでした。
しかし最近、この見慣れた数値が、腎臓が発するかすかなSOSを捉えているかもしれないという研究が報告されました。
糖尿病性腎臓病は、これまで尿中に漏れ出るアルブミンや尿タンパクを主な手がかりとしてきました。
けれども近年、アルブミン尿がなくても腎機能が低下するタイプの腎臓病が増えています。
これは、腎臓の中で血液を濾過する「糸球体」だけでなく、その後の尿の成分を調整する「尿細管」という部分の障害が関わっているためです。
この尿細管のダメージを、いかに早く見つけるかが新たな課題となっています。
徳島大学の研究グループは、日本人2型糖尿病患者490人(男性309人、女性181人)のデータを解析し、この課題に新たな光を当てました。
彼らが注目したのが、冒頭で触れたRDWです。
解析の結果は次のように整理できます。
* RDWは、従来の腎機能指標であるeGFR(糸球体濾過量)や尿中アルブミン(uACR)とは関連が見られませんでした。
* 一方で、RDWは尿細管の障害を反映するマーカーである尿中L-FABP(肝型脂肪酸結合タンパク質)の値と統計的に有意な正の相関を示しました。
つまり、RDWが高い、すなわち赤血球の大きさがふぞろいであるほど、腎臓の尿細管が傷ついている可能性が高いということです。
RDWは、体内の酸化ストレス(活性酸素による細胞の損傷)を反映して上昇することが知られています。
体全体にかかる酸化的ストレスが、繊細な構造を持つ尿細管にダメージを与え、その結果が赤血球の「足並みの乱れ」として現れているのかもしれません。
従来のフィルターの目づまり(アルブミン尿)を検出する検査とは異なり、もっと初期の細胞レベルの異常を拾っている可能性があります。
もちろん、この研究は日本人の2型糖尿病患者を対象としたものであり、さらに一時点のデータを解析した横断研究です。
そのため、RDWの上昇が直接的に腎障害を引き起こすのか、あるいはその結果なのかまでは明らかではありません。
それでも、この研究を知ってから、血液検査の見方が少し変わりました。
RDWの数値を、ただの貧血の指標としてではなく、患者さんの腎臓が発しているかもしれない「静かなSOS」として意識するようになったのです。
RDWは特別な追加費用なしに、日常の採血で半ば自動的に測定されている項目です。
だからこそ、その小さな変化に気づくかどうかは、医師のまなざしにかかっているのだと思います。
参考文献:
Miyataka K, Kaneko Y, Hori T, et al. Red blood cell distribution width is associated with renal tubular injury in individuals with type 2 diabetes. J Diabetes Investig. Published online September 29, 2025. doi:10.1111/jdi.70149

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
