先日、外来で診察の合間に胸部レントゲン写真の異常個所を「画像診断用AIアシスタント」が指摘してくれました。
見落としがちな影を瞬時にマークしてくれるのはありがたいのですが、同時に「自分の観察力が少しずつ鈍っているのでは」と、ふと怖さも感じてしまいます。
では、実際にAIが医師の思考力にどのような影響を及ぼすのか、それを調査した研究結果があります。
今年発表されたポーランドでの前向き研究では、AI支援の大腸内視鏡に慣れた医師が、AIなしで検査を行うとポリープ発見率が約20%低下していました。
研究者たちは「AIに依存した後は注意力や責任感が低下する」と記しています。
また米国で276人の臨床医を対象にした実験では、AIに大きく依存する医師は同僚から「能力が低い」と見なされる傾向も示されました。(なんとなくわかる気がします。)
ただし、すべてのスキル低下が問題視されるわけではありません。
スタンフォード大学のシャー教授は「白血球の手作業カウントが機械に置き換えられたように、医師がやらなくてよい単純作業はAIに任せればよい」と指摘します。
その一方で、鑑別診断や患者との対話など、核心的なスキルは守り抜く必要があるとも強調されています。
この状況を航空機の自動操縦にたとえる研究者もいます。
飛行機の安全性は高まったものの、パイロットは定期的に手動操作を訓練し、緊急時への備えを怠りません。
医師も同様に、AIに頼りながらも定期的に「自分の手と頭」で判断する機会を意図的に残すことが重要です。
ここで強調したいのは、AIを「思考停止の道具」ではなく、「思考を深めるパートナー」として位置づけることです。
そのためには、AIの提案を鵜呑みにせず、批判的に吟味する能力を医師が持ち続ける必要があります。
とはいえ「ある程度のスキル低下は避けられない」とする専門家もいます。
むしろAIの方が正確な領域を医師が無理に続ければ、かえって患者の利益を損なう危険があります。
だからこそ、医師の教育課程では「どのスキルをAIに任せ、どのスキルを人間が維持するのか」を体系的に整理する必要があると論じられています。
私自身、診療現場でAIの助けを借りながら、患者さんの表情や声の調子から伝わる「数値化できない情報」をどう読み取るかを大切にしています。
AIが広大なデータを解析する一方で、人間の医師が果たすべき役割は、目の前の人の物語に耳を傾け、その背景を理解することにあります。
これからの医療は、人間の感性と機械の演算力をどう調和させるか、その工夫にかかっているのだと思います。
結局、医師が「人間にしかできないこと」に集中するために、AIは医師をアシストする存在なのだということですね。
参考文献:
Budzyń K, Romańczyk M, Kitala D, et al. Endoscopist deskilling risk after exposure to artificial intelligence in colonoscopy: a multicentre, observational study. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2025;10(10):896-903. doi:10.1016/S2468-1253(25)00133-5

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
