私が外来で患者さんに「運動していますか」と尋ねると、多くの方が「運動した方がいいのは分かっているけど…」と歯切れが悪い返事をされます。
今年の夏は特に暑かったというのもありますが、忙しさや体調の波に加えて、誰かが一緒にしてくれない限り、続けられないのは当然だと思います。
私自身もランニングの習慣をつけるのに仲間の存在が大きかったので、その気持ちはよく分かります。
かつて、慢性腎臓病(CKD)の患者さんにとって運動は身体への負担が大きいと考えられていました。
しかし近年の研究で、むしろ積極的に体を動かすことが生活の質を高め、入院率を下げるなど多くの良い効果をもたらすことが分かっています。
にもかかわらず、運動療法はなかなか普及していません。
その原因は医療従事者の意識が低いからなのか、あるいは患者さん本人にやる気がないからなのか。
この疑問に答えるために、ヨーロッパの研究チームは、5か国(ドイツ、ギリシャ、イタリア、スペイン、スウェーデン)の医療機関で大規模な調査を行いました。
調査結果からは三つの大きなポイントが浮かび上がりました。
第一に、医療従事者の高い意識です。
看護師の96%、医師の98%が、運動は患者にとって有益だと考えていました。
第二に、患者が置かれた現実です。
実際に運動プログラムを「受けたことがない」と答えた患者さんは、治療法によって差はあるものの63%から91%にのぼりました。
第三に、国ごとの大きな差です。
医師が運動を処方する頻度は国によって異なり、ドイツでは15%にとどまる一方、スウェーデンでは86%に達していました。
浮かび上がった最大の壁は、患者や医師の意欲不足ではなく“制度の空白”でした。
スウェーデンでは理学療法士が配置され、運動処方への保険償還制度が整っているため、患者に実際の支援が届いていました。
対照的に他国では「運動は効果的だ」という共通認識がありながら、専門家や制度の裏付けが欠けているため、努力が空回りしていたのです。
ただし、この研究にも限界があります。
参加した施設は無作為に選ばれましたが、各国の参加率の違いにより偏りがある可能性は否定できません。
また、患者自身の心理的な障壁については別研究に委ねられています。
私が思い出すのは、自分のランニングを支えてくれた仲間の存在です。
腎臓病患者さんにとっても、理学療法士という伴走者の存在が鍵になります。
運動が薬と同じように「処方」されれば、患者の体力や生活の質を高めるだけでなく、入院や介護にかかる費用を減らし、社会全体の医療資源の節約にもつながります。
走るときに伴走者がいるとペースを保てるように、医療の現場でも制度という伴走があれば、運動療法は力強く根づいていくはずです。
参考文献:
aomi Clyne, Adamasco Cupisti, Clemens Grupp, Evangelia Kouidi, Eva Segura-Orti, Pasquale Fabio Provenzano, Vicent Esteve-Simo, Giovanni Tripepi, Carmine Zoccali, the EUSUREX working group , Lack of physiotherapy resources restricts exercise prescription for patients with chronic kidney disease – the EUropean SUrvey on REnal EXercise (EUSUREX), Clinical Kidney Journal, 2025;, sfaf291, https://doi.org/10.1093/ckj/sfaf291

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
