外来で患者さんと話をしていると、「血圧が少し高いと言われて心配になった」という声をよく耳にします。
普段から生活習慣に気をつけていても、血圧は日によって上下しやすく、数字に不安を覚える方は少なくありません。
医師としてそんな相談を受けるたびに、薬以外での工夫について説明する機会が多くなります。
塩分制限や運動など、生活習慣に踏み込んだお話のほかにも、ミネラル、特にマグネシウムについて触れることもあります。
今回紹介するのは、2025年に発表された大規模なシステマティックレビューとメタ解析です。
研究チームは38件のランダム化比較試験を解析し、合計2709人の参加者を対象としました。
介入は4週間以上続き、投与されたマグネシウムの量は82.3mgから637mg、中央値は365mgで、平均12週間の継続が行われています。
その結果、マグネシウムを摂取した群では平均して収縮期血圧が2.81mmHg、拡張期血圧が2.05mmHg低下しました。
特に注目すべきは、
・ 高血圧で降圧薬を使用している人では収縮期血圧が約7.7mmHg低下
・ 血中マグネシウムが低い人(低マグネシウム血症)では収縮期血圧が約6mmHg低下
という明確な効果が確認されたことです。一方、血圧が正常な人では統計的に有意な変化は見られませんでした。
この発見は、マグネシウムがあたかも“血管の潤滑油”のように働いていることを想像させます。
体内で血管の緊張を和らげ、ナトリウムの再吸収を減らし、さらには一部の降圧薬の効果を補強する作用があると考えられています。
とりわけ薬を飲んでいる人に効果が強く出たのは、利尿薬によるマグネシウムの喪失を補う働きが影響しているのかもしれません。
ただし、この研究にも限界があります。
試験ごとに投与したマグネシウムの種類や量、参加者の背景が異なり、全体として“ばらつき”が大きいのです。
さらに、マグネシウムの血中濃度だけでは体内の本当の不足を正確に測れないという問題も指摘されています。
ちなみに、マグネシウムというと、広く知られているのは便秘薬として使われているマグミット錠やカマグでしょう。
これらは「酸化マグネシウム」であり、今回の解析にも酸化マグネシウムは含まれていました。
しかし、強い血圧低下作用が報告されたのは、塩化マグネシウムやアスパラギン酸マグネシウムといった吸収率の高い化合物でした。
酸化マグネシウムは吸収率が低いため、通常の便秘治療用量では血圧に明確な影響を及ぼす可能性は小さいと考えられます。
ではサプリメントはどうか。
血圧が気になる方にとって「じゃあすぐにマグネシウムサプリを飲もう」と思いたくなるところですが、研究者たちは慎重です。
今回の解析では明確な「量と効果の関係(用量反応関係)」は見つかっていないからです。
むしろ食事全体のバランスを整えることが第一歩であり、サプリは補助的な位置づけに過ぎません。
それでも、普段の食卓でナッツや豆類、緑の葉野菜、魚介類を意識することは、血圧に悩む患者さんにとって現実的で実行しやすい方法です。
医師としても、こうした日常的な工夫が薬と並んで“血管の滑らかさ”を守る一助になると伝えることができます。
研究がさらに進めば、マグネシウムは高血圧管理の選択肢としてより明確な位置づけを得るかもしれません。
参考文献:
Argeros Z, Xu X, Bhandari B, Harris K, Touyz RM, Schutte AE. Magnesium Supplementation and Blood Pressure: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Hypertension. Published online September 26, 2025. doi:10.1161/HYPERTENSIONAHA.125.25129

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
