夜中に仕事が行き詰まり、どうしても終わらせたいのに頭が回らない。
そんな時にコーヒーを一口飲んで(夜、眠れなくなるのは覚悟のうえで)、「まだやれる」ともうひと踏ん張りを絞り出すことがあります。
あの感覚は単なる思い込みではなく、科学的に裏付けがあるのかもしれません。
今回紹介する研究は、カフェインが「粘り強さ」にどのように影響するのかを調べたものです。
これまで動物実験では、カフェインが「不動状態(ストレス下で動かなくなる行動)」を減らすことが報告されていました。
それは気力が増すことを意味するのか、あるいは困難に対して粘り強く向き合うことを示すのか、研究者の間でも議論が続いてきました。
この疑問を人間で確かめたのが、今回の実験です。
アメリカ・アマースト大学の研究チームは、329人の大学生を対象に3つの実験を行いました。
課題には「隠し絵探し」や「解けないアナグラム(文字並べ替え)」といった、必ず行き詰まる要素を含むものを採用し、どれだけ長く粘り続けるかを測定しました。
第一の実験では40mgのカフェイン入りガムを用いましたが、効果は見られませんでした。
しかし第二の実験で量を100mg(コーヒー1杯分ほど)に増やすと、被験者は平均して38%から52%へと、見つかるはずのない絵を探し続ける時間が延びました。
さらに第三の実験では、氷水に手を入れる「冷水ストレステスト」で心理的ストレスを与えた後に課題を行わせました。
その結果、ストレスを受けた上でカフェインを摂取した人は、何も飲まなかった人よりもずっと長く挑戦を続けたのです。
この結果は、カフェインが単に覚醒させるだけでなく、「困難に向かう姿勢」に影響を与えることを示しています。
まるで疲れたランナーに最後の力を引き出す風が背中を押すように、カフェインは挑戦を投げ出さない力を支えているのかもしれません。
もちろん限界もあります。
カフェインの摂取習慣や体質による差、また実験では「解けない課題」に限定されていたため、長期的な努力や日常生活の粘り強さにも同じ効果があるかはまだ分かりません。
それでも、深夜の机の上で感じたあの一杯の力には、確かな科学の裏付けがありました。
今後は「短期の頑張り」を超えて、人生の長いマラソンにもこの効果が役立つのかどうか、研究の広がりが楽しみです。
参考文献:
Akbari P, Comess SR, Henkoff O, Oduor P, Turgeon SM. Effects of Caffeine and Stress on Persistence and Performance in an Unsolvable Visual Search Task in Humans. Hum Psychopharmacol. 2025;40(5):e70014. doi:10.1002/hup.70014

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
