ビタミンAは多すぎても少なすぎても危険?―がんリスクと「ちょうどいい」量の科学

ビタミンAは多すぎても少なすぎても危険?―がんリスクと「ちょうどいい」量の科学

 

外来で患者さんと話していると、「先生、ビタミン剤って飲んだほうがいいですか?」と尋ねられることがあります。

健康のために積極的に摂りたい気持ちはよくわかりますが、サプリメントの世界は単純に「多ければ多いほどよい」とはいかないのです。

今回紹介する研究は、そんな素朴な疑問に一石を投じるものでした。

 

研究はベトナムの4つの大病院で行われ、食生活とがんリスクの関係を調べています。

参加者はがん患者3758人と非がん患者2995人。

食事調査票を使って日々のビタミンA摂取量を細かく記録し、がん発症との関連を統計的に分析しました。

ビタミンAは目や免疫、細胞分化に欠かせない栄養素で、緑黄色野菜やレバー、卵などに多く含まれています。

欠乏すると夜盲症(暗い場所で見えにくくなる)や感染症への抵抗力の低下、皮膚や粘膜の異常などを引き起こすことが知られています。

 

調査の結果、ビタミンAの摂取量とがんの発症リスクの間には、明確な「U字型」の関係があることが分かりました。

ビタミンAの摂取量が「少なすぎる」とがんのリスクが上がる一方、「多すぎても」同じようにリスクが上昇したのです。

がん全体の発症リスクは、摂取量が85.3〜104.0µg/日程度のとき最も低く、それより少なくても多くても危険度が増しました。

統計的には、最も少ない群では1.98倍、多い群では2.06倍リスクが高くなっていました。

このU字型の傾向は胃がん、食道がん、乳がん、直腸がんで特に明確に見られました。

 

この発見を直感的にたとえるなら、ビタミンAは「薬味の塩」のような存在です。

ほんの少し加えると料理を引き立てますが、少なすぎると味気なく、多すぎるとしょっぱすぎて食べられなくなる。

その「ちょうどよさ」が健康にもあった、ということです。

 

もちろん、この研究は病院に通う患者を対象にしており、一般集団の食生活すべてを反映するものではありません。

さらに、ビタミンAの血中濃度を直接測ったわけではなく、食事調査票に基づく推定値である点にも注意が必要です。

 

それでも「栄養は過不足なく」という昔からの教えを、最新のデータが裏づけているのは興味深いことです。

私自身、日々の食卓で彩り豊かな野菜や果物を意識して取り入れるとき、ふとこの研究を思い出しました。

足りなさも、やりすぎも避けながら、バランスの中にこそ本当の健康が隠れているのでしょう。

 

参考文献:

Ikeda S, Truong NB, Tran AH, et al. Vitamin A Intake and Risk of Cancer Incidence: Insights from a Case-Control Study. Nutrients. 2025;17(17):2744. Published 2025 Aug 25. doi:10.3390/nu17172744

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。