運動は腎臓を守る?―11年間にわたる追跡調査から見えたこと

運動は腎臓を守る?―11年間にわたる追跡調査から見えたこと

 

診察室で患者さんに「腎臓を長持ちさせる方法はありますか」と尋ねられることがあります。

減塩や体重管理といった生活習慣の改善はよく知られていますが、「運動」についてはどうでしょう。

かつては腎臓に負担をかけることを避けて、運動は控えるべきと考えられていた時代もありました。

しかし、最近になって、腎臓に対する運動の効果はエビデンスがそろってきたように思います。

今回紹介する大規模な追跡調査もそのひとつです。

 

この研究は、ノルウェー・トロムソで行われた「RENISコホート」に基づきます。

対象となったのは、糖尿病や心臓病、腎臓病を持たない50〜64歳の1837人。

彼らは11年間にわたり定期的に腎機能を測定されました。

しかも血清クレアチニンなどの推定値ではなく、造影剤イオヘキソールを用いた正確な糸球体濾過量(mGFR)が測定されました。

これは少量の造影剤を注射し、血液中からどれくらいの速度で排泄されるかを調べる方法で、腎臓のろ過機能を直接的に評価できる検査です。

さらに参加者は、運動の頻度・強度・時間を自己申告するアンケート(PAFID質問票)にも回答しました。

 

結果は、日々の積み重ねの大切さを物語るものでした。

腎機能の中央値は年間で1.06 ml/分/1.73㎡ずつ低下していましたが、ほぼ毎日運動していた人ではその低下が年間0.47 ml/分/1.73㎡分だけに緩やかになっていました。

つまり、運動習慣は腎保護にはたらいたということです。

また「腎機能が急速に落ちていくグループ」に入る割合は、運動習慣のある人でおよそ3分の1程度にまで減っていました。

 

この発見の核心は、「腎臓もまた筋肉と同じように使い方次第で老化の速度が変わる」という点です。

運動が酸化ストレスや炎症を抑え、血管の健康を保つことは知られていますが、腎臓にとっても同じ保護効果があると考えられます。

それは、定期的に潤滑油を差すことで機械の摩耗が遅くなるのに似ています。

 

もちろん、この研究には限界もあります。

観察研究であるため因果関係を断定はできず、また運動量は自己申告に依存しているため、実際の活動量との差がある可能性があります。

それでも、1837人という大規模な集団を11年間追跡して得られた知見は信頼に足るものです。

 

腎臓病は世界的に増加しており、その医療費は社会に大きな負担を与えています。

今回の研究が示すように、日常の運動が腎臓の寿命を延ばす可能性があるとすれば、それは薬に頼らない「予防の力」を再評価するきっかけになります。

診察室で交わされたあの問いかけ─「腎臓を長持ちさせる方法はありますか」─に対して、運動という身近な習慣が一つの答えになり得ることを、この研究は提示してくれています。

 

参考文献:

Enoksen ITT, Eriksen BO, Hallan SI, Melsom T. Regular Physical Activity is Associated with Slower Age-Related Iohexol Clearance Decline in the General Population Without Diabetes. Clin J Am Soc Nephrol. Published online September 3, 2025. doi:10.2215/CJN.0000000832

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。