腎臓とビタミンC―隠された濃度のルール

腎臓とビタミンC―隠された濃度のルール

 

意外に思うかも知れませんが、犬や猫など、多くの動物は自分の体内でビタミンCを合成できます。

私たちヒトは合成に必要な酵素の遺伝子が働かなくなっているので、外から補うしかありません。

この生物学的な事実を思うと、日常診療で「カリウムが高いので果物は控えめにしてくださいね」という言葉は、非常に重く感じます。

良かれと思ってお伝えしているこの一言が、ただでさえ自給自足できない大切な栄養素を、確実に遠ざけているわけですから。

そんな臨床での実感と重なる、興味深い研究に出会いました。

 

これまでの研究でも、腎臓病の患者さんはビタミンCが不足しがちなことは知られていましたが、その主な原因は食事制限や透析による除去などと考えられてきました。

しかし、オランダの研究チームは、腎機能そのものがビタミンCの血中濃度に関わっているのではないかという仮説を立てました。

彼らは、健常者385人、腎臓を提供したドナー447人、腎移植を受けた患者42人、そして進行した腎臓病(CKDステージ4/5)の患者41人や透析患者62人といった、まさに腎機能の「上流から下流まで」の様々な段階にある人々のビタミンC濃度を測定するという、包括的な調査を行いました。

 

結果は明確でした。

腎機能が高いほどビタミンC濃度は高く、機能が落ちるにつれて濃度も段階的に下がっていきました。

特に進行したCKD患者の8割、透析患者ではサプリメントを服用していても58%が不足または欠乏の状態にありました。

移植後の患者も半数近くが不足に陥っており、予想外の課題が浮かび上がりました。

 

この研究で特に印象的だったのは、健康な人が腎臓を提供した後、血中のビタミンC濃度が有意に低下したという事実です。

これは、腎機能が少し落ちるだけでも、体内のビタミンCを保つ能力に影響が出る可能性を示しています。

まるで、ダムの貯水能力が落ちると下流に安定した水を供給できなくなるように、腎臓という「栄養の調整ダム」の機能が少し衰えるだけで、体内のビタミンC濃度を適切に保てなくなってしまうのかもしれません。

 

腎機能がビタミンC濃度を左右する理由にはいくつかの仮説があります。

本来、腎臓は余分なビタミンCをろ過した後に再吸収し、必要量を体内に保とうとします。

しかし腎機能が落ちるとこの再吸収が不十分となり、血中濃度が低下する可能性があります。

さらに代謝産物の蓄積によるビタミンCの消耗、炎症や酸化ストレスによる需要増加も加わり、濃度が下がりやすくなるのです。

加えて、果物や野菜を控える食習慣、透析での除去、薬剤の影響など複数の要因が重なり、CKDの患者さんは容易に不足へと傾いてしまいます。

 

日々の診療で当たり前のように行っているカリウム制限の指導が、巡り巡ってビタミンCという大切な栄養素の不足を招いているかもしれない。

この研究は、その可能性をデータで裏付けてくれました。

腎臓は単なる老廃物のろ過装置ではなく、私たちの体を支える栄養素を維持する繊細な調整役も担っている。

この視点を忘れずに、これからの栄養指導に活かしていきたいと感じています。

 

参考文献:

Doorenbos CSE, Bolhuis DP, Ipema KJR, et al. Vitamin C Status across the Spectrum of Chronic Kidney Disease and Healthy Controls: a Cross-sectional Study. Am J Clin Nutr. Published online September 10, 2025. doi:10.1016/j.ajcnut.2025.09.008

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。