兄弟姉妹の間で見えた意外な攻撃性のかたち

兄弟姉妹の間で見えた意外な攻撃性のかたち

 

鎌倉の古い家で暮らす三姉妹のもとに、ある日、腹違いの妹がやってくる。

是枝裕和監督の映画『海街diary』に描かれる四姉妹の暮らしは、穏やかで慈しみに満ちています。

食卓を囲み、梅酒を作り、何気ない日常を積み重ねながら、彼女たちは確かに家族になっていく。

しかしその風景の中には、姉妹ならではの小さな棘や、言葉にならない感情のぶつかり合いも見え隠れします。

家族という関係だからこそ生まれる独特の攻防があるのだと気づかされる場面です。

 

実際に科学者たちも、この「家族の中での攻撃性」に注目しました。

これまでの研究は主に友人や見知らぬ人といった血縁のない相手を対象としており、その場合は男性の方が攻撃的だと結論づけられてきました。

ところが、アリゾナ州立大学を中心とする国際チームは、家庭という閉じられた世界では異なる力学が働くのではないかと考え、検証に乗り出したのです。

 

調査では、参加者に子ども時代(16歳以下)と大人になってから(18歳以上)の両方で、兄弟姉妹や友人、知人にどれくらい攻撃的行動をとったかを尋ねました。

対象となった行動は「叩く・平手打ち」「怒鳴る」といった直接的な攻撃だけでなく、「噂を広める」「家族や他人に告げ口する」といった間接的なものまで含まれています。

 

結果は、兄弟姉妹に対しては女性が男性と同じか、むしろやや強く攻撃的である傾向があるというものでした。

具体的には、子ども時代の「叩く」「怒鳴る」といった行為は、多くの国で女性が兄弟に対してより頻繁に行っていました。

一方で、友人や知人といった血縁関係のない相手に対しては、これまでの通り男性の方が攻撃的であり、この対比はきわめて鮮明でした。

 

なぜこのような逆転が起きるのでしょうか。

研究者は、家族という場では資源や親の注意をめぐる「取り合い」が激しく、男女ともに競争が避けられないためだと考えています。

また、親が男の子の暴力には厳しく叱責しやすいことも、女の子の方が遠慮なく手を出す一因になっているかもしれません。

さらに、同じ「叩く」という行為でも、男の子の力は大きな危害につながる可能性が高いため、自制が働くのではないかと推測されています。

 

『海街diary』で描かれた、言葉には出さないけれど確かに存在する姉妹間の緊張感。

それは、この研究が示す人間性の複雑さとも通じているように思えます。

今回の発見は、人間の攻撃性が決して単純なものではなく、「誰に対して」という文脈によって柔軟にその姿を変えることを示しています。

家族という最も身近な関係を、これまでとは少し違う角度から見つめ直すきっかけを、この研究は与えてくれるようです。

そして、私たちが「当たり前」と思っている性差のイメージも、視点を変えればまったく異なる姿を見せるのだと気づかされます。

 

参考文献:

Varnum MEW, Kirsch AP, Beal DJ, et al. Commonly observed sex differences in direct aggression are absent or reversed in sibling contexts. PNAS Nexus. 2025;4(8):pgaf239. Published 2025 Aug 26. doi:10.1093/pnasnexus/pgaf239

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。