高齢者の腰痛に効く?鍼治療が示した確かな可能性

高齢者の腰痛に効く?鍼治療が示した確かな可能性

 

高齢者の多くが、慢性的な腰の痛みに悩まされています。

世界的に見ても、腰痛は生活の質を損なう大きな要因であり、その苦しみは年齢とともに強まります。

痛み止めなどの薬は一時的な助けになりますが、特に日常的に多くの薬を併用している高齢者にとっては、副作用のリスクが大きな問題になります。

こうした背景から、米国の研究チームは鍼治療の効果を科学的に確かめるため、大規模な臨床試験を行いました。

 

この研究の特徴は、65歳以上の高齢者のみ800人を対象にした点です。

参加者はランダムに3つのグループに分けられました。

通常の医療を受けるだけのグループ、通常医療に加えて12週間で最大15回の鍼治療を受けるグループ、さらにその後の12週間も維持のための鍼治療を続けるグループです。

この調査で、鍼治療がどの程度効果的なのか、また効果を維持するために必要な頻度を検証しました。

 

その結果、鍼治療を受けた人々では明らかな改善が確認されました。

具体的には、6か月後、腰痛による生活機能の支障度を測る「ローランド・モリス障害質問票」で30%以上の改善が見られた人の割合は、通常医療のみの群で29.4%、標準的な鍼治療群で39.1%、維持治療を加えた群では43.8%でした。

数値にすると、鍼治療を受けた人の4割前後が「日常生活が楽になった」と実感したことになります。

この差は1年後も続き、効果が持続していることが示されました。

さらに安全性の面でも、500人を超える参加者の中で鍼治療に関連して報告された重大な副作用は1件のみで、ごくまれであることが示されました。

 

この効果は、錆びついてギーギーと音を立てる蝶番に油を差す作業にも似ています。

最初の数滴で動きは劇的に滑らかになり、あとは時折の補充で状態を保てる。

鍼治療も同じように、最初の集中的な施術が体の流れを整える「きっかけ」となり、その後は比較的安定した状態が続くのかもしれません。

 

この研究は、経験則として語られてきた鍼治療に科学的な裏付けを与えました。

薬だけに頼るのではなく、自分の体に備わる力を引き出すアプローチとして、鍼治療は症状緩和の有効性を裏づけています。

 

私自身、患者さんから「薬を増やすのは不安だ」と言われることがよくあります。

そのとき、この研究結果を紹介できるのは大きなことです。

診療の現場で科学的根拠を持つ選択肢を示せることは心強く、痛みに悩む高齢の方々にとって、鍼治療は現実的な選択肢のひとつとなり得ます。

 

参考文献:

DeBar LL, Wellman RD, Justice M, et al. Acupuncture for Chronic Low Back Pain in Older Adults: A Randomized Clinical Trial. JAMA Netw Open. 2025;8(9):e2531348. Published 2025 Sep 2. doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.31348

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。