診察室で、この言葉を口にするとき、私たち医療者も沈痛な思いです。
「残念ですが、そろそろ透析の準備を始めなければなりません。」
その瞬間、患者さんの表情が曇り、ご家族の手にも力がこもるのを感じます。
食事療法や薬の調整など、できる限りの努力を積み重ねてきても、腎機能の低下という流れを完全に止めることは難しい。
腎臓内科医として、これほど無力感を覚えることはありません。
だからこそ、この流れに抗う新しい治療法が現れるたびに、大きな期待を寄せてきました。
慢性腎臓病と2型糖尿病を併せ持つ人は、心血管病や腎不全のリスクに常にさらされています。
日常診療ではACE阻害薬やARBといったレニン・アンジオテンシン系の薬を基本に、SGLT2阻害薬やフィネレノン(非ステロイド性ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、商品名ケレンディア錠)が追加されることが一般的です。
また、SGLT2阻害薬の代表的な一つがエンパグリフロジン(商品名ジャディアンス錠)で、糖とナトリウムの再吸収を抑えて腎臓や心臓を守る働きをします。
しかし、これらを同時に始めたときの効果や安全性については十分なエビデンスがありませんでした。
CONFIDENCE試験は、この空白を埋めるために行われた国際的な大規模臨床試験です。
腎機能が30〜90の範囲にある患者800人を対象に、フィネレノン単独、エンパグリフロジン単独、そして両者の併用を比較しました。
主要評価項目は尿中アルブミン・クレアチニン比(UACR)の変化で、これは腎臓がどれだけダメージを受けているかを映す重要な指標です。
半年後、結果は明確でした。
併用群はフィネレノン単独に比べて29%、エンパグリフロジン単独に比べて32%大きくUACRを下げていました。
数値でみると、フィネレノン群のUACR低下は約32%、エンパグリフロジン群は29%だったのに対し、併用群は52%の低下を達成しました。
これは両薬の効果がほぼそのまま合算された形です。
安全性の面でも、大きな懸念は示されませんでした。
血圧低下は併用群でやや強めに出ましたが、治療中止に至るほどでは稀でした。
血清カリウムの上昇はフィネレノン単独と同程度で、重度の高カリウム血症は少なく、SGLT2阻害薬が抑制的に働いた可能性も考えられます。
腎機能の一時的な低下は見られましたが、多くは可逆的でした。
もちろん、この研究は6か月間という限られた期間での結果であり、長期的な腎不全や心血管イベントの抑制効果までは明らかになっていません。
それでも、短期間でこれだけ強いアルブミン尿抑制が得られたことは臨床的に大きな意味を持ちます。
アルブミン尿の30%以上の低下は、腎不全や透析導入のリスク低下に直結するとされているからです。
私自身、外来で糖尿病性腎症の患者さんに向き合うとき、「もう少し早く強い治療ができれば」と思う瞬間が少なくありません。
段階的に薬を足すより、最初から組み合わせることでリスクを素早く下げられるなら、その意義は大きいと感じます。
もちろん一人ひとりの体質や副作用リスクを考慮する必要はありますが、選択肢が増えることは確かに心強いことです。
この試験結果は、慢性腎臓病と糖尿病の治療戦略に新しい風を吹き込むものです。
患者さんにとっても医療者にとっても、より早く腎臓を守る可能性がひとつ拓けたと言えるでしょう。
参考文献:
Agarwal R, Green JB, Heerspink HJL, et al. Finerenone with Empagliflozin in Chronic Kidney Disease and Type 2 Diabetes. N Engl J Med. 2025;393(6):533-543. doi:10.1056/NEJMoa2410659

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
