腰痛は世界で最も多くの人が悩まされる症状のひとつで、医療費や生活の質に大きな影響を与えています。
私自身も長時間の診療やパソコン作業で腰の重さを感じることがあり、「どうすれば予防できるのか」と考えることが増えました。
そんな中で今回紹介する研究は、日常の歩行習慣と慢性腰痛のリスクを結びつけ、具体的な目安を示してくれています。
ノルウェーの大規模調査「HUNT研究」では、2017年から2019年にかけて1万人以上の成人が加速度計を装着して歩行データを記録しました。
その後、平均4年間の追跡調査を行い、慢性腰痛の発症状況を確認しています。
対象者は研究開始時点で慢性腰痛がなく、少なくとも1日分の有効な歩行データを持つ人々でした。
調査の結果、実に興味深い関係性が見えてきました。
結論から言うと、1日の歩行時間が長い人ほど、慢性的な腰痛を発症するリスクが明らかに低かったのです。
具体的には、
- 1日78分未満の人を基準とすると、100分以上歩く人では腰痛リスクが23%低下
- 125分以上歩く人では、その効果がさらに持続
歩く速さ、すなわち強度も一定の関係はありましたが、効果の大きさは歩行時間に比べると控えめで、むしろ「どれだけ歩くか」が重要であることが示されています。
研究者たちは、歩行量の増加が腰の負担を和らげ、筋肉や関節を守る可能性があると考えています。
この研究の核心は「腰痛予防においては、量が質を上回る可能性がある」という点にあります。
毎日少しずつでも歩行の時間を積み立てることが、将来の腰痛予防につながるのです。
必死に息を切らして速く歩くよりも、まずは毎日コツコツと歩く時間を確保することが大切です。
そして、その効果が1日約100分を境にゆるやかになるというデータは、「頑張りすぎなくても大丈夫」という心強いメッセージとして受け取れます。
一方で、この研究は観察研究であり、因果関係を完全に断定できるわけではありません。
また、腰痛の評価は自己申告に基づいているため、多少の誤差を含む可能性もあります。
それでも、1万人以上を対象にした長期調査で得られた知見は信頼性が高く、日常生活に取り入れる価値が十分にあるといえるでしょう。
この研究を知ってから、私の散歩への向き合い方も少し変わりました。
以前は「どうせ歩くなら速足で(なんならジョギングで)」と気負っていた部分がありましたが、今はただ花や木を眺めたり、空の青さや雲や風を感じたりしながら、ゆっくり歩く時間を慈しむようになりました。
特別な運動や高価な器具は必要ありません。
ただ歩くこと。
そのシンプルな行為が、私たちの体を静かに、しかし確実に支えてくれます。
まずは歩く時間を少しずつ増やしてみることから始めてみませんか。
参考文献:
Haddadj R, Nordstoga AL, Nilsen TIL, et al. Volume and Intensity of Walking and Risk of Chronic Low Back Pain. JAMA Netw Open. 2025;8(6):e2515592. Published 2025 Jun 2. doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.15592

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
