「1万歩神話」の終焉?―健康最適歩数は目標7000歩

「1万歩神話」の終焉?―健康最適歩数は目標7000歩

 

母と話すとき、歩数計のことをつい「万歩計」と呼んでしまいます。

紙おむつをパンパース、保存容器をタッパーと言うのと同じように、商標名が一般名称のように定着してしまった一例です。

「万歩計」は1965年、東京オリンピックを機に体力づくりへの関心が高まった時代に山佐時計計器から発売され、当時のキャッチコピーが「1日1万歩あるこう!」でした。

そのフレーズが広く浸透し、それ以来「1万歩」が健康の合言葉として人々の意識に残り続けたと言われています。

 

ただし、この「1万歩」という数字には科学的な裏付けがあったわけではありません。

近ごろでは必ずしも根拠があったわけではないことが、多くの人に知られています。

ですから、「じゃあ一体何歩あるけば正解なのか」という問いが湧いてくるのは、自然な流れでしょう。

 

今回紹介する国際的な大規模研究は、その問いに答えようとするものです。

研究グループは、日常の歩数と病気や死亡率との関係を詳細に検証しました。

その結果、7000歩という現実的かつ効果的な目標が浮かび上がったのです。

 

研究では2014年以降に発表された57本の前向き研究をまとめ、31本の研究からメタ解析を行いました。

対象は死亡、心血管疾患、がん、糖尿病、認知症、うつ、身体機能、転倒と幅広く、まさに歩数の全身への影響を検証した内容です。

解析の結果、2000歩と比較して7000歩では次のようなリスク低下が確認されました。

  • 総死亡率:47%低下
  • 心血管疾患の発症:25%低下
  • がん死亡:37%低下
  • 糖尿病:14%低下
  • 認知症:38%低下
  • うつ症状:22%低下
  • 転倒:28%低下

がんの発症については有意な低下を示さなかったものの、全体的には7000歩が一つの分岐点になることが明らかになりました。

 

さらに一万歩以上歩いた場合でもリスク低下は続きますが、その効果は緩やかになり、7000歩を超える部分は「おまけ」のような性質でした。

つまり、無理に一万歩を目指さなくても、7000歩で十分に健康効果が得られるのです。

特に日々の仕事や家庭の用事で忙しい人にとって、達成しやすい目標であることは大きな利点です。

 

もちろん注意すべき点もあります。研究の多くは欧米や日本など高所得国で行われており、低所得国のデータは乏しいこと。

また、歩数だけでは自転車や水泳などの運動は評価できない点もあります。

それでも、これほど多くの病気に共通して予防効果があるという事実は驚くべき成果です。

 

私自身もランニングや日常の移動で歩数を意識していますが、この数字を知ったときには気持ちが軽くなりました。

1万歩に届かなくても、7000歩で確かな成果がある。

そう思うだけで、日々の散歩や通勤路の一歩一歩に意味が宿る気がします。

患者さんにもだいぶ勧めやすくなりますし、何より根拠のあるデータを示すことができます。

今日から無理のない範囲で歩数を積み重ね、未来の自分に贈り物をしてみませんか。

 

参考文献:

Ding D, Nguyen B, Nau T, et al. Daily steps and health outcomes in adults: a systematic review and dose-response meta-analysis. Lancet Public Health. 2025;10(8):e668-e681. doi:10.1016/S2468-2667(25)00164-1

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。