音楽が脳を指揮する ― リズムと脳波、2つの周波数の共鳴

音楽が脳を指揮する ― リズムと脳波、2つの周波数の共鳴

 

私は、いつもギター教室の先生に「リズムが大事!」と注意されます。

この歳になって痛感するのは、ギターの腕前よりもリズム感のなさです。

そんなリズム音痴の私でも(正確であるかは置いといて)ドラムがリズムを刻み続けると、その音に体が自然と反応してきます。

思わず、音楽に合わせて体や足でリズムをとってしまいます。

 

今回紹介する研究は、音のリズムが脳の活動にどのように影響していくのかを解き明かしたものです。

 

研究チームは「FREQ-NESS」と呼ばれる新しい分析手法を開発しました。

これは脳波や脳磁図で記録された信号を、周波数ごとに分けて脳内ネットワークを見える化する方法です。

これまでの研究では脳の特定の周波数帯や部位だけに注目することが多く、全体像をつかむのは難しい課題でした。

FREQ-NESSは、脳全体を対象に周波数ごとのネットワークの配置や活動を同時に解析できる点が特徴です。

 

実験では29人の参加者が協力しました。まず安静にしているときの脳活動を計測し、その後、2.4Hz(毎秒2.4回)の等間隔の音を聴いてもらいました。

その結果、脳のネットワークに明らかな変化が見られました。

安静時にはデフォルトモードネットワーク(休んでいるときに働く内省的なネットワーク)やアルファ帯域(8〜13Hzの比較的低い周波数で、落ち着いているときに強く出る波)の活動が中心でしたが、音刺激が始まると次のような変化が起こったのです。

 

・刺激と同じ周波数に「同調」した聴覚ネットワークが新たに出現した。

・アルファ帯域の活動が後頭部から運動感覚野へとシフトした。

・一方でベータ帯域(13〜30Hz、主に運動に関わるリズム)のネットワークは変化せず安定していた。

 

さらに興味深いのは、低周波のリズムが高周波のガンマ活動(30Hz以上で、情報処理や記憶に関わる)を調整していたことです。

具体的には、2.4Hzの聴覚ネットワークの位相(リズムの拍のような位置)が、海馬などを含むガンマ帯域の活動強度をコントロールしていました。

言い換えれば、低いリズムが高いリズムのスイッチを押して、脳全体を指揮する指揮者のように動かしていたのです。

これは外部からのリズムが、脳内の複数の周波数帯のやり取りを活性化させることを示しています。

シンプルな音のリズムが、脳のいろいろなネットワークをつなげて協力させるスイッチのような役割を果たしているのです。

 

私自身もランニング中に音楽を聴くと、身体の動きが自然に曲のリズムに合ってくる経験をしてきました。

その背後で、このような複雑な脳のネットワーク再編成が起きていると考えると、音楽の持つ力をあらためて実感します。

今後この方法は、音楽療法やリハビリ、さらには脳疾患の理解にも役立つかもしれません。

音のリズムが脳を揺さぶり、新しいネットワークをつくり出す。その瞬間を科学は少しずつ可視化しつつあります。

 

参考文献:

Rosso M, Fernández-Rubio G, Keller PE, et al. FREQ-NESS Reveals the Dynamic Reconfiguration of Frequency-Resolved Brain Networks During Auditory Stimulation. Adv Sci (Weinh). 2025;12(20):e2413195. doi:10.1002/advs.202413195

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。