慢性腎臓病と聞くと、多くの人は透析や心臓病などとの関連を思い浮かべるかもしれません。
しかし実際には、感染症もまた腎臓病患者にとって深刻な脅威となっています。
米国や欧州のデータでは、慢性腎臓病の患者のおよそ4分の1が感染症を理由に入院しており、その割合は心血管疾患に匹敵します。
私自身、外来で腎機能が軽度に低下している患者さんが、ちょっとした肺炎や尿路感染で急に体調を崩す場面を見てきました。
日常診療で実感していたことが、今回の大規模研究は数値として答えを示してくれています。
研究では、世界47のコホートから120万人以上のデータを集めました。
腎機能(eGFR)と尿中アルブミン量(ACR)の二つの指標が、感染症による入院リスクとどう結びついているのかを解析したのです。
その結果、eGFRが90〜104に比べて60〜89に下がっただけで感染リスクは9%上昇しました。
45〜59では39%増加し、30未満になると2倍以上に跳ね上がります。
一方、アルブミン尿も同じ傾向を示しました。
正常とされる範囲に近い10〜29mg/gでもすでに40%のリスク増加が認められ、300mg/g以上では2.6倍にまで達したのです。
両者が重なるとリスクは6倍を超え、腎臓と感染症の結びつきがいかに強力かを物語っています。
感染の種類別に見ても傾向は一貫しており、肺炎や尿路感染だけでなく、敗血症や皮膚・筋肉の感染に至るまで、腎機能やアルブミン尿とリスクの関係が確認されました。
特に印象的だったのは、若年層や糖尿病・高血圧を持たない比較的健康な人ほど、腎機能低下に伴うリスクの上昇幅が大きかったことです。
つまり、普段は元気な人でも腎機能の軽い低下が感染症の引き金になり得るということです。
この結果は単なる統計ではなく、生活に直結します。
例えばワクチン接種の重要性です。
インフルエンザや肺炎球菌、帯状疱疹、そして最近ではRSウイルスに至るまで、腎臓病患者に推奨される予防接種は多岐にわたりますが、その接種率はまだ十分ではありません。
私自身も診察の場で「帯状疱疹のワクチンを受ける予定はありますか」などと確認するようになりました。
加えて、手洗いなどの日常の衛生習慣、抗菌薬の乱用を避けることも欠かせません。
今回の研究が示したのは、腎臓の健康が感染症の行方を大きく左右するという現実です。
数値で示されるリスクを前にすると、普段の血液検査の値がただの数字ではなく、未来の健康を守る鍵であることが実感できます。
腎機能の低下やわずかなアルブミン尿を軽視せず、早い段階から感染予防の手立てを講じることが、安心して生活を続けるための最も確かな道筋なのだと思います。
参考文献:
Ishigami J, Surapaneni A, Matsushita K, et al. Estimated glomerular filtration rate, albuminuria, and risk of infection: a collaborative meta-analysis of individual participant data. EClinicalMedicine. 2025;86:103372. Published 2025 Jul 31. doi:10.1016/j.eclinm.2025.103372

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
