音楽を聴くと、なぜか風景が思い浮かんだり、昔の記憶が呼び起こされたりします。
気分転換にイヤホンをすると、ひとりきりで歩いていても、誰かと一緒にいるような感覚が芽生えることがあります。
COVID-19の流行期、多くの人が「音楽を聴いて自分を落ち着かせていた」「音楽がそばにいるようで支えになった」と答えていたのも、この効能をよく示しています。
実際、数々の音楽家たちが音楽を奏でる動画を延々と眺めていた記憶があります。
今回紹介する研究は、その「音楽がそばにいる」という感覚を科学的に確かめたものです。
研究では600人の参加者が、目を閉じて「遠くの山へ向かう旅」を想像する課題に取り組みました。
条件は2つ。
無音で取り組む場合と、イタリア語・スペイン語・スウェーデン語の民謡を聴きながら取り組む場合です。
さらに歌詞の有無、言語の理解の有無も組み合わせ、精緻に比較されました。
結果は、印象的なものとなりました。
音楽を聴いているときの想像は、よりはっきりとした情景を描き、感情も明るくなっていました。
時間や移動距離の感覚も広がり、旅が長く豊かに続いていくように感じられたのです。
そして最も興味深いのは、音楽を聴いたとき、心に浮かぶ場面に「人との交流」が増えていたことです。
言葉が理解できなくても、声が消されていても、この効果は変わりませんでした。
つまり音楽そのものが、頭の中に「人と共にいる風景」を呼び込む力を持っているのです。
さらに別の実験では、参加者の想像内容をAI画像に変換し、新しい人たちに見てもらいました。
その結果、音楽を聴きながら描かれた場面の方が、人の集まりや明るい情景として判別されやすいことがわかりました。
音楽が心に描かせる世界は、他人にも伝わるほど際立っていたのです。
この発見は、臨床の現場にも活かせる可能性があります。
心のケアに用いられる「イメージ療法」では、想像の鮮明さや感情の調整が重要とされます。
音楽がそれを後押しするなら、孤独感の軽減や社会的な安心感を支える一助となるでしょう。
どうやら「音楽は友だち」という言葉は、ただの詩的な言い回しではなかったようです。
音楽は私たちの内側に、他者の存在や温かなコミュニティのイメージをそっと映し出してくれます。
孤独を感じてイヤホンを手に取る行為は、科学的に見ても、実に理にかなった心の処方箋だったようです。
参考文献:
Herff, S.A., Cecchetti, G., Ericson, P. et al. Solitary silence and social sounds: music can influence mental imagery, inducing thoughts of social interactions. Sci Rep 15, 27583 (2025). https://doi.org/10.1038/s41598-025-10309-2

紹介した論文の音声解説を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
