朝のコーヒーを飲まないと一日が始まらない―そう感じる人は少なくありません。
私自身もその一人で、「コーヒー中毒」と言われても、あえて否定はしません。
紅茶やエナジードリンクであっても事情は同じです。
カフェインが脳に活を入れることは体感的に知られていますが、それが私たちの「気分」にどのような形で作用しているのか。長いあいだ科学的な解答ははっきりしないままでした。
その謎を解明するため、ドイツやイギリスの研究者らは、115人と121人の若い参加者を対象に、2週間から4週間にわたり、延べ2万件を超える報告を集める調査を行いました。
その結果、カフェイン摂取後には「楽しい」「熱中している」「幸せ」といったポジティブな感情が有意に高まることが確認されました。
特に目覚めから2.5時間以内、つまり朝のコーヒータイムがもっとも効果的で、気分の上昇幅が顕著でした。
一方で「悲しさ」や「不安」といったネガティブな感情については、変化が見られないか、あっても小さな効果にとどまりました。
この効果にはいくつかの要因が関わります。
まず、カフェインはアデノシンという眠気を促す物質をブロックし、ドーパミンやノルアドレナリンの分泌を増やします。
これが覚醒を助け、気分を明るくしてくれるのです。
さらに、夜の間に溜まった軽いカフェイン欠乏状態をリセットする「離脱症状の解消」も作用していると考えられます。
加えて、研究では「普段より疲れている時ほどカフェインの効果が強い」ことも示されました。
面白いのは、他人と一緒にいる場面では効果がやや弱まり、一人でいるときの方がはっきり効きやすかった点です。
すでに社会的な刺激が気分を左右しているため、カフェインの影響が埋もれてしまうのかもしれません。
もちろん注意も必要です。
この研究は若い成人に限られており、年代や体質による違いはまだ不明です。
加えて、自己申告に基づくデータなので、正確な因果関係を断定することはできません。
それでも、朝のコーヒーが単なる習慣ではなく、心理的・生理的に意味を持つ行為であることが改めて浮かび上がりました。
結局のところ、私が毎朝カップを手にする理由にも、この研究は背中を押してくれる真っ当な答えを示しています。
カフェインはネガティブな気分を取り除く特効薬ではありませんが、確かに朝の数時間にポジティブな気分を押し上げてくれる。
だからこそ「一杯のコーヒーで始まる一日」という風景は、私にとっても、そして科学的にも裏付けのある現実なのです。
参考文献:
Hachenberger, J., Li, YM., Realo, A. et al. The association of caffeine consumption with positive affect but not with negative affect changes across the day. Sci Rep 15, 28536 (2025). https://doi.org/10.1038/s41598-025-14317-0

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
