年齢を重ねると、体のあちこちに違和感が出てきます。
若い頃と違い、朝起きると背中や腰がこわばっている。
先輩たちが口にしていた「これが歳をとることか」という実感が、じわじわと自分にも訪れてきます。
「老化」は単なる年齢の積み重ねではなく、細胞の中で静かに進行するものです。
最近では、高血圧や糖尿病といった病気ごとの治療ではなく、病気を呼び込む土台=老化そのものに焦点をあてる分野が登場しています。
それがジェロサイエンス(老化科学)と呼ばれる学問です。
文献のデータを見ても事態は深刻です。
イタリアでは65歳以上が人口の24.1%を占め、2050年には35%に達すると予測されています。
高齢者の87%が慢性疾患を抱え、67%が複数の病気と付き合っている状況があります。
年齢そのものが、病気の最大のリスク因子となっていることが浮き彫りになります。
研究者は「生物学的年齢」という概念を用います。
これは実年齢とは別に、身体の機能がどれほど老いているかを測る指標です。
たとえば50歳でも、運動能力やDNAの状態によっては40歳相当の人もいれば、60歳に相当する人もいます。
DNAのメチル化、テロメアの短縮、ミトコンドリアの衰えといった変化が、その差を生み出しているのです。
では、どうすれば老化を遅らせられるのでしょうか。
古典的な方法がカロリー制限です。
マウスでは20%の制限で寿命が最大40%延び、人間を対象としたCALERIE試験でも老化の進行が0.6年分遅れる結果が出ました。
ここから「食事は薬にもなる」という考えが裏付けられます。
さらに糖尿病治療薬メトホルミンは、観察研究で認知症やパーキンソン病の発症率を下げ、COVID-19による死亡率も減少させる傾向が示されました。
移植医療に用いられるラパマイシンも、細胞内の老化経路を調節し、マウスで寿命を延ばす効果が確認されています。
そして老化細胞を取り除く「セノリティクス」という治療薬では、寿命が27%延びたというマウス実験が報告されました。
もちろん課題もあります。
米国FDAは「老化の遅延」を治療の目的として認めていません。
そのため、臨床試験の設計は複雑さを増しています。
それでも、こうした研究は病気を待って治療するのではなく、老化そのものを調整する新しい道を切り拓きつつあります。
結論として、老化に働きかける介入は、病気の進行を遅らせ、健康な時間を増やす可能性を示しています。
肩の重みや腰のこわばりを単なる“年のせい”と片づけず、科学がそこに手を差し伸べはじめている。
そうした事実は、社会の高齢化を前向きに受け止めるための力強い材料として期待したいです。
参考文献:
Kritchevsky SB, Cummings SR. Geroscience: A Translational Review. JAMA. Published online August 07, 2025. doi:10.1001/jama.2025.11289

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
