採血結果に表れない健康な脂質代謝―運動がもたらす体の変化

採血結果に表れない健康な脂質代謝―運動がもたらす体の変化

 

健康のために運動を心がけている人は多いでしょう。

医療の現場でも、体重やコレステロール値を改善するために運動をすすめるのは日常的なことです。

しかし、努力を重ねても血液検査の結果に大きな変化が見られないと、患者も医療者も落胆してしまいます。

 

それでも、数値の裏側では体が着実に変化していることがあります。

スペインの研究者たちが行った実験は、その一端を明らかにしました。

 

この研究では、日頃運動をしない健康な18〜25歳の若者101人を、運動なし、中強度、高強度の3グループに分け、週3〜4回・24週間のプログラムを実施しました。

中強度は心拍予備能の約60%、高強度は約80%で、有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせています。

血液中の脂質を対象に、総コレステロールや中性脂肪といった従来の指標に加え、794種類もの脂質分子を個別に測定しました。

 

24週間後、総コレステロールや中性脂肪などの一般的な数値には大きな変化がありませんでしたが、中強度運動では「グリセロリン脂質」や特定の「トリアシルグリセロール」が有意に増加。

一方、高強度運動での変化は限定的でした。

 

さらに、中強度運動では男性はグリセロリン脂質やリゾリン脂質が、女性はトリアシルグリセロールが増加するなど、性差も見られました。

グリセロリン脂質の増加は、最大酸素摂取量(VO2peak)の向上とも結びついていました。

 

この結果は、運動の効果が必ずしも従来の健康診断の数値に表れるとは限らないことを示しています。

数値が変わらなくても、体内では健康に向けた繊細な調整が進んでいるのです。

その人に合った「ちょうどいい強さ」があり、反応は性別によっても異なる─数字の奥にある静かな営みに目を向ける視点が、健康理解の新たな鍵となるかもしれません。

 

参考文献:

Zhang Y, Zhang Z, Martinez-Tellez B, et al. Moderate-intensity exercise training uniquely modulates circulating lipid species beyond classical lipid levels in humans. EBioMedicine. Published online July 15, 2025. doi:10.1016/j.ebiom.2025.105849

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。