サンゴ礁は地球温暖化による海水温の上昇や酸性化、酸素濃度低下など、複合的な環境変化にさらされ、生き残りの危機に直面しています。
近年では、熱耐性を持つサンゴを利用して礁全体の回復力を高める「積極的な復元戦略」が注目されています。
特に、マングローブラグーンのような極端な環境に適応したサンゴは、高温や低酸素、低pHといった厳しい条件下でも生き残る力を持っており、その活用が期待されています。
今回のオーストラリアの研究では、グレートバリアリーフのWoody Islesマングローブラグーンからサンゴ(Pocillopora acuta)を採取し、隣接するより穏やかなLow Islesのリーフへ移植しました。
そして移植前と1年後に、急性熱ストレス試験(CBASS)を行い、熱耐性の変化を評価しました。
その結果、マングローブ由来のサンゴはリーフ由来のサンゴよりも常に高い熱耐性を示し、移植後1年経過してもその能力は低下しませんでした。
熱耐性を示す指標であるED50(光合成効率が半減する温度)は、マングローブ群では37.6〜37.9℃で推移し、リーフ群の36.7〜36.8℃を明確に上回っていました。
遺伝子解析では、マングローブサンゴはDNA修復や代謝、細胞の恒常性維持に関わる遺伝子が活性化されており、これらが高温下での損傷修復やエネルギー管理に寄与していることが示唆されました。
さらに、DNAメチル化解析では、熱ストレス下でリーフ群の方が高いメチル化率を示しましたが、これは表現型の柔軟性の低さと関連する可能性があります。
沖縄でもサンゴ礁の白化が深刻化しており、特に夏季の高水温が続く年には広範囲でサンゴが死滅しています。
2016年の大規模白化では、石垣島周辺や本島北部で70%を超える被害が報告され、その後も回復が追いつかない場所が多くあります。
回復が進んでいる地域も一部存在しますが、石西礁湖や慶良間諸島のように比較的環境が安定している場所と比べると、本島周辺では回復が遅れがちです。
加えて、沿岸開発や赤土流入、台風の大型化もサンゴの再生を妨げています。
太平洋の他地域、例えばパラオやハワイでは、地域的な保護区設定や陸域からの負荷低減によって回復傾向が見られる事例もあり、こうした成功事例は沖縄の保全策にも参考になります。
そのため、沖縄でも熱耐性の高いサンゴを選抜・移植する試みが進められており、本研究で示されたような極限環境由来のサンゴ利用は、地域の保全策に大きなヒントを与える可能性があります。
本研究は、マングローブのような極限環境を生き抜くサンゴが持つ自然の強さを、戦略的に利用することで、気候変動下でもサンゴ礁の存続を支える有力な手段となりうることを示しています。
参考文献:
Roper CD, Suggett DJ, Songsomboon K, Edmondson J, England H, Haydon TD, Goyen S, Duijser CM, Alderdice R, Voolstra CR, Camp EF. Coral thermotolerance retained following year-long exposure to a novel environment. Sci Adv. 2025 Aug 8;11(32):eadu3858. doi: 10.1126/sciadv.adu3858. Epub 2025 Aug 8. PMID: 40779617; PMCID: PMC12333670.

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