透析が必要になるような慢性腎臓病の患者さんは、貧血になりやすいのですが、それはなぜでしょうか。
原因のひとつが腎性貧血です。
腎性貧血は、腎臓で産生される「エリスロポエチン」という赤血球製造の司令官のようなホルモンが減ってしまい、その結果、骨髄の生産ラインがペースダウンします。
全身への酸素供給は不足し、階段を上っただけで息が切れ、やる気まで酸欠状態になります。
脳の働きも影響を受けます。
こうした背景を踏まえ、中国・安徽省の血液透析センターで行われた研究では、腎性貧血と認知機能低下の関係が調べられました。
対象は6か月以上透析を続けている248人(平均年齢57.2歳、男女ほぼ半数ずつ)です。
認知機能はMMSE(ミニメンタルステート検査)で評価し、24点未満を認知機能低下と定義しました。
その結果、全体の33.9%にあたる84人が認知機能低下と判定されました。
ヘモグロビン値を4群に分けて比較すると、低値群(<9.0 mg/dL、Q1)では認知機能低下が60.7%でした。
正常域(11.0–13.0 mg/dL、Q3)では21.0%、高値群(>13.0 mg/dL、Q4)では12.9%でした。
特に注意力や計算力はヘモグロビンの高い群ほど高得点で、酸素が脳にエールを送っているような結果が得られました。
日本透析医学会のガイドラインでは、成人透析患者の貧血管理目標として、ヘモグロビンを10.0〜11.0 mg/dL未満にしないこと、上限は12.0 mg/dL程度とし、13.0 mg/dLを超えないよう推奨しています。
この範囲は心血管リスクを抑えつつ、体力と脳力の両方を維持できる安全な範囲です。
統計解析では、年齢、教育歴、透析期間、既往症(糖尿病や心血管疾患)、透析前の血圧、アルブミン、尿酸値などが認知機能と関連しましたが、ヘモグロビンは独立して保護的な要因であることが示されました。
多変量解析では、Q1群はQ3群に比べて約15倍(OR=15.395、95%CI: 3.184–74.443)も認知機能低下のリスクが高いことが明らかになりました。
貧血が脳を攻める方法は多彩です。酸素不足で脳をじわじわ弱らせ、酸化ストレスと炎症で追い打ちをかけます。
鉄代謝も乱れ、神経は悲鳴を上げます。
さらに、認知機能が落ちた人は薬や食事管理が疎かになり、貧血はますます悪化します。
この負のスパイラルが患者を苦しめます。
結論として、維持血液透析患者においてガイドライン推奨のヘモグロビン値を保つことは、身体だけでなく頭の冴えを守る鍵となります。
酸素は裏切らない—そんなメッセージが、この研究から聞こえてきます。
参考文献:
Huang, L., Zhang, Y., Wang, J. et al. Association of anemia and cognitive impairment in patients undergoing maintenance hemodialysis: a cross-sectional study. BMC Nephrol 26, 387 (2025). https://doi.org/10.1186/s12882-025-04336-4

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
