「嘘も100回言えば真実になる」という言葉があります。
ナチスのヨーゼフ・ゲッベルスによるものとされていて、プロパガンダを語る際によく引き合いに出されます。
これは「真理の錯誤効果」と呼ばれる心理現象として知られていて、誤った内容でも繰り返し接することで親しみが湧き(単純接触効果)、やがて本当のことだと信じ込んでしまうのです。
政治演説や商品の連呼広告は、この仕組みを利用した典型例と言えるでしょう。
しかし、この心理現象はそれだけにとどまりません。
何度も見聞きするうちに、その嘘を信じるだけでなく、広めること自体への罪悪感まで薄れてしまうというのです。
この不思議な人間心理の仕組みを、フェイクニュースを題材に調べた研究があります。
米国の研究グループは、1600人以上を対象に実験を行いました。
まず参加者に複数のフェイクニュースの見出し(例えば「トランプ氏、軍の近代化のために徴兵制を復活」など)を見せ、これらを「おなじみ」の見出しとして認識させます。
一定の時間を置いた後、参加者に再び「おなじみ」の見出しと、初めて見る「新作」のフェイクニュース見出しを提示し、「SNSでこれをシェアする行為はどのくらい非倫理的か」を0(まったく非倫理的でない)から100(非常に非倫理的)までの数値で評価してもらいました。
結果は、人の心の動きを端的に示しました。
一度目にした「おなじみ」のフェイクニュースは、初めて見るものに比べて、シェアすることへの道徳的非難が平均で4.66ポイントも下がったのです。
見慣れたものには、私たちは自然と寛容になってしまうようです。
さらに研究者は、参加者の半分に対して「この見出しは正確だと思いますか?」と、情報の真偽を問う質問を追加しました。
情報の正確さを意識させれば、フェイクニュースへの道徳的批判も高まるという仮説です。
ところが、この試みは効果がありませんでした。
それどころか、正確さを問われなかったグループの方が、道徳的非難の低下幅が5.62ポイントとわずかに大きかったのです。
私たちの心は、繰り返し触れる情報に対し、その内容の真偽だけでなく、それがもたらす行為の善悪判断までも鈍らせる性質を持っています。
これは特定の誰かを責める話ではなく、人間の心の仕組みがもともとそのようにできている、と考える方が自然でしょう。
日々スクロールしていくスマートフォンの画面の向こう側で、私たちの倫理観は静かな摩耗を続けている―そんな可能性も頭の片隅に置いておく必要がありそうです。
参考文献:
Orchinik R, Bhui R, Rand DG. Replicability and generalizability of the repeated exposure effect on moral condemnation of fake news. Nat Commun. 2025 Aug 5;16(1):7206. doi: 10.1038/s41467-025-62462-x. PMID: 40764509.

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
