見えない声の影響力―トーンが左右する経済行動の心理

見えない声の影響力―トーンが左右する経済行動の心理

 

普段の生活で、私たちは様々な人と関わりを持ちながら過ごしています。

特に、初対面の相手と話すとき、無意識にその人を「信用できるかどうか」判断しているものです。

その時、印象を左右するものとして「声の高さ」と言われると、そこまで意識していなかった人も腑に落ちるものでしょう。

では、そこにお金が絡んでくると、話はどう変わるのでしょうか。

カナダのクイーンズ大学で行われた心理学の実験が、この点について興味深い視点を提供しています。

どうやら私たちは、声の高さから感じる「信頼」を、場面に応じて器用に使い分けているようなのです。

 

この研究では、118人の参加者に、音声編集ソフトで高さを調整した様々な声を聞かせました。

そして、「信頼ゲーム」という仮想的なお金のやり取りを通じて、声の主に対する信頼度を測定しました。

ゲームには2種類あり、一つは投資のように利益も損失も出る可能性があるもの、もう一つは単純にお金を公平に分けるかどうかが問われるものでした。

具体的には、前者は送ったお金が3倍になる可能性があり、後者はお金を均等か不均等に分ける選択肢が与えられました。

 

結果は、なかなか面白いものでした。

 

金銭的なパートナーとして選ばれたのは、ゲームの種類にかかわらず、一貫して「高い声」の持ち主でした。

提案者として相手にお金を送る際も、高い声の持ち主に、より多くの金額を送る傾向が見られたのです。

さらにお金を返してもらう立場になっても、提案者の声が高い方が、多くの金額が返ってきました。

 

一方、「全般的に信頼できる人物はどちらか」という、より漠然とした問いに対しては、人々は「低い声」を選びました。

また、低い声の持ち主は「ギャンブルや株といった金融リスクを取りそうだ」とも認識されていました。

ただし、低い声の人物は「冷静さ」や「リーダーシップ」など、ポジティブな面も同時に連想されます。

 

なぜ、このような一見矛盾した結果が生まれるのでしょう。

研究者は、高い声が「協力的」で「利益を分け与えてくれそう」という期待感を抱かせると考えています。

だからこそ、お金のやり取りという具体的な場面では有利に働くのかもしれません。

 

一方で低い声は、「支配性」や「社会的地位の高さ」を連想させ、「頼りになりそう」という一般的な信頼感につながります。

しかし、それは同時に「リスクを恐れない大胆さ」や、場合によっては「利益を独占しそうな手強さ」の裏返しとも受け取られかねません。

 

私たちは無意識のうちに、声のトーンから相手の「能力」と「意図」を嗅ぎ分け、状況に応じてどちらの物差しを重視するかを決めている。

そんな人間のしたたかさが、声という微妙な手がかりから透けて見えるようです。

 

参考文献:

O’Connor JJM. Higher-pitched voices are perceived as financially trustworthy. Br J Psychol. 2025 Jun 2. doi: 10.1111/bjop.70000. Epub ahead of print. PMID: 40457593.

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。